ずっと側に



吹雪は夜うなされる事が多々ある。

その事に気がついたのは最近だ。吹雪とは部屋が隣だから、何となく気がついてはいた。壁が薄く隣から苦しそうに呻いた声が聞こえてくる日がたまにあったし、そうじゃなくても「寝ている間に無意識にやっちゃったのかも。」と見せてきた手のひらには赤く滲んだ爪の後がついていたのを何回か見た。


けど「何か悩みでもあるのか?」と聞いても「え?特にないよ。」と平然と返してくる。確かに見た感じおっとりしていて周りとの関係も良好で、ストレスを感じているような点は見当たらない。じゃあなんで……。






「特訓付き合ってくれてありがとな!」

「あぁ。いつでも付き合うぞ。」

「じゃ!おやすみ!」

「おやすみ。」

いつものように円堂との必殺技の特訓を終え宿舎に帰えればもう10時を過ぎていた。
…監督に見つかったら怒られるな。

急いでシャワーを浴び、自室に戻ろうと廊下を歩く。
自分の部屋の前まで来たところで、ふと隣の部屋が気になった。

吹雪は今日もうなされているんだろうか…?

様子だけ見ようとそーっと戸を引く。
吹雪は既に寝ていて部屋は暗く、中から「ぅぅ…」と小さいが呻いた声がして思わず吹雪が眠るベッドに近づき膝をつく。

少しすると目がだいぶ慣れてきて吹雪の姿が確認できるようになった。吹雪の身体は膝をたたんで最小限の小ささで横になり、手は何かを掴もうとシーツの上を滑っている。

「……あつ…ゃ…。」

すがるような切ない声で呼ばれた名前は、「アツヤ」だった。
弟とのケジメはつけられても、家族を失った悲しさ寂しさまでは気持ちを切り換えきれないんだろう。特に一人の時は。

そこで気がついたが、きっと今まで俺が気づいていないだけで吹雪はずっとその寂しさと戦っていたのかもしれない。

考えていたら自然と俺の手は吹雪の手を包んでいた。すると少しは安心したようにほぅと表情が和らいぐ。繋いだ手は思ったよりも冷えている。汗をかいた額の髪を避けてやると、微かに吹雪の目が開いた。

「…………。」

起こしたか?……まずい。この状況をどう説明したらいいんだ。

「………ごうえんじくん…?」

寝ぼけ眼でぼーっと辺りを見回しながら、舌ったらずな声で俺の名前を呼ぶ。その仕草がなんか可愛い。

「ねれないの?」

繋いでいる手を気にかけることなく聞いてくる。
いや、寝れてないのはお前なんだが…。

「…んー……。」


答えに戸惑っていると吹雪の目がまた閉じられ、すぅ と眠りに落ちた。

だが安心したのも束の間。
手を繋いだまま寝返りをうつもんだから俺の身体も持っていかれる。

「お、おい。」

このままだと吹雪を潰してしまうと吹雪の頭の脇に手をついて体制を整える。

「おい。吹雪、吹雪。」

「………………。」

起きる気配無し。

「…………はぁ。」


ため息をつき、吹雪の布団に入いる。吹雪が手を握ったまま向こうを向いているから、俺が吹雪を後ろから抱きしめるような格好になっているが………

知らないからな。お前が悪いんだからな。朝起きても俺を批難するなよ。


心の中でそんな悪態をつきつつもこんな事なかなか出来ないから裏では心臓が跳ね出そうなほど緊張していたり。


それでも、吹雪はもううなされる事なく眠ることが出来たようだ。


……なんで吹雪の事になるとこんなにも余裕がなくなるんだろう。うなされている事だって、他のやつなら相談に乗るくらいで、ここまで関わろうとしないだろ。
でも吹雪って聞くと心配で心配で…。



とにかく、だ。

俺たち。いや、俺は絶対いなくならない。
お前が望むなら、何度だって
いつまでも側にいてやるから。

……ずっとだ。
だから吹雪も、ずっと側にいてくれ。

じゃないと心配だから。




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