豪炎寺と鳩



夕香がケガをした鳩を段ボールに入れて家に持って帰ってきたのはちょうど1ヶ月前の雪の日だった。
動物を差別している訳ではないが、変な病原菌を家に持ち込まれると厄介だから元居た場所に返してこいと言ったのに、あんまりにも駄々を捏ねるもんだからしょうがなく面倒を見ることになった。

カラスにやられたのか車に轢かれたのか片羽はボロボロで、もう飛ぶのは無理だろうと思った。
ぐったり横たわる鳩をとりあえず動物病院に連れていき見てもらい、ケガの手当てをしてもらった。

「鳩ちゃん早く元気になるといいね!」

「そうだな。」

もちろん世話係は俺だ。
朝と夜エサをあげてたまに傷の手当てをする。最初こそ警戒していた鳩だったが、一週間もすればだいぶ打ち解けられたようでエサの時間になれば鳴いて俺を呼んだり、歩けるようになってからは家の中で俺の後をついて来るようになった。

それが内心嬉しくて、気づけば家に帰れば俺も何かと鳩を気にかけるようになった。
ペットを飼うってきっとこんな感じなんだな…。
いつの間にか疎まれていた存在の鳩は俺の癒しになっていた。




だが、野生の生き物はやはり野生の環境でしか育てないようで…
家に来てから二週間が過ぎたころから段々と鳩は生気が弱くなっていった。


「死んじゃやだよぉ!」と箱の中で来たときと同じようにぐったり横たわる鳩を見て夕香が泣きじゃくる。
こういうもんなんだ。しょうがない。と言う言葉は夕香にはまだ早かったかもしれない。


そうして一瞬でも家族として過ごした鳩は、家に来てから三週間。眠るように息を引き取った。

夕香には、元気になったから自然に返した。と言って河川敷の近くの土が柔らかい場所に埋めた。
埋めながら哀しくて涙が出た。癒してくれた鳩の存在は俺の心の奥の深いところまで入り込んでいたらしい。

こんなに辛い思いをするなら最初から家に入れなければ良かったと後悔しそうになった。だがコレで良かったんだと思う事にした。


それから毎日鳩の墓参りをしている。哀しみはもう薄れたが、たった三週間過ごした代償は大きかった。

小さな命が教えてくれた事は、俺が意外に泣き虫だという事だ。





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