▼ 05
赤くなった吹雪はそれを隠すように俯く。しかしもうバレたと確信したのかポツポツと想いを打ち明け始めた。
「気持ち悪いかもしれないですけど…好きです。染岡先輩のこと。」
掴んでいた手を離し膝に置く。
「何でまた染岡なんだ?」
「助けてもらったんです。……男なのに恥ずかしい話ですけど、電車で痴漢された事があって…//」
うん。何か分かる気がした。
「すごく、カッコよかったんです……//」
照れくさいのか部屋の隅を見つめながら話す吹雪の表情は優しくて、恋をしている人間はこんなにも美しいのかと思う。
同時に俺の表情は一気に曇る。
「あ、すみません。人の片想いなんて聞いてもつまんないですよね。」
それを嫌悪に捉えられたと思ったのか慌てて話題を変えてくる。
「サインまだしてないですよね。カード出してください。」
「…ああ。」
ポケットに入れてたせいでヨレたカードを円卓に放る。
こんな胸が苦しくなるなら聞かなきゃ良かったか…?
いや、
「お前のカードはもう埋まったのか?」
まだ希望はある。
「え、……いいえ。せめて最終日は先輩の手助けをしたいと残して置いたんですけど、結局会えなくて。」
きた!
友人が同じような事をしていたからまさかとは想ったが、恋するやつは似るな。
「じゃあその最後の1つ、俺を助けるのに使ってくれないか?」
「……え?」
サインを書き終えてカタリとペンを置き俺を見上げてくる。
「カード出して。」
「………はい。」
頭に?マークをうかべながらもそっとカードを差し出してくる。
俺は空欄部分にサッと名前を書くと吹雪に渡し、立ち上がった。気がつけば雨は上がっていた。
乾燥機の中にあるYシャツの事も、立て掛けてある傘も忘れたフリをして玄関に向かった。急がないと吹雪がそれに気がついてしまう。
「あ、帰るんですか!あの僕まだ何も……ん…!?」
パタパタと後をついてくる吹雪に振り返り唇を重ねる。
そうだ、初めて見たときから俺の心は吹雪に向いていた。
名残惜しさを残し唇を離すと、何が起きたか分からないと言うように顔を真っ赤にして目を開いていた。
「…あ……あの//……」
俺の恋は叶わなかったが
敵わないわけじゃない
「俺を助けると思って1ヶ月猶予をくれ。必ず落としてみせる。」
「…あの……お、…落とすって//…」
靴を履きドアを開く、忘れたフリをしているのは後で吹雪に届けさせるためだ。
これだけ強烈な出会いだったんだ、俺を忘れる事はないだろう。
「じゃあ吹雪、またな。」
ガチャッとドアを閉め家へ歩き出す。俺が出ていった後吹雪はどんな行動をするんだろうか。そして俺が(わざと)置いていった物を発見して悩むだろう。
それだけで染岡に勝ったような優越感に浸れる。
ヤり逃げ、と言ったらいかがわしい感じがするが吹雪の唇を奪ったのは俺が先だ。
考えていたら吹雪の隣に立つのは俺だと変な自信が沸いてきた。1ヶ月間どうやって吹雪をこっちに向けさせようか。
とりあえず、次会うのはそう遠くなさそうだ…。
開き直った俺の心のように、空には雨上がりの虹がかかっていた。
終
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