豪吹

こんな感情は初めてだ。
こんなにも人を意識してしまうなんて。

「...豪炎寺、くん?」

押し倒されている当人は俺の気持ちにまったく気づいてない。こんな状況は初めてではないはずだろうに”仲間”というだけでこんなにも心を許している。これから何をされるかも知らずに。

「いきなりどうしたんだい?」

俺を選んでくれたら、ずっとそばにいて甘やかしてやるのに。もう絶対にひとりにさせないのに。

「ねぇ、大丈夫?なんだか怖いよ。」

落ち着かなく俺を見上げてくる。この不安そうな顔も笑顔も泣き顔も全部、俺のものになったらいいのに。


吹雪の事を意識し始めたのはたぶんキャラバンで沖縄から東京に帰ってきたくらいだと思う。それまでは何となく落ち込んでいるように見えた吹雪が、染岡の見舞いから戻って来たときは何かが違っていた。染岡の話をする時だけ雰囲気が柔らかくなった。俺の知っている吹雪じゃない。吹雪はこんなふうに幸せそうな顔を見せるやつじゃなかった。こんなに自分ができているやつじゃなかった。だがそれでもまだ自分を制御できていたのは事実上吹雪の一番近くにいるのが自分だったからだ。吹雪が頼れるのは俺だけ。心のどこかに優越感があった。それを証明したのが河川敷のことだ。俺はわざと吹雪を置き去りにした。これまで積み上げてきたものを試したんだ。結果は思った通りだった。

「ねぇ、豪炎寺くんってば。どいてよ。」

目の前の吹雪はわけが分からないと言うように顔の両脇についている俺の腕に手をかけた。なんで。どうして。お前はあの時、ひとりは嫌だって俺に叫んだくせに。染岡にも見せたことない本音だったはずだ。だから俺は吹雪をひとりにさせなかったのに。染岡が戻ってきた途端に俺は用無しになった気がした。俺のほうが、吹雪を見ているのに…!

「な、なにか言ってよ。君らしくない。」

君らしくない。吹雪は俺のどこを見て俺らしくないと思うんだろう。俺が行動してる以上俺らしいはずなのに、個々の感じる印象だけで行動まで否定されるなんてごめんだ。

「吹雪。」
「なに?」
「吹雪は、染岡のことをどう思う?」
「え。染岡くん…?」

いきなり出た名前に驚いた表情をした。戸惑う瞳をグッと覗き込みながら答えを待つ。どうせこんなことをしたって本当の事は聞けないのに。

「染岡くんとは、最強コンビで、親友だよ。」
「親友?」

はら、そうやってすぐはぐらかす。本当は好きで好きで仕方ないくせに、染岡にも伝えずに自分の中だけで想い続けて。動かなければ報われないと知っているだろうに。だが言わないならそれはそれで俺は動きやすい。無自覚とは罪だな。だけど、それで俺の心を弄んでおいて本人は知らないなんて許さない。

「それが聞きたかったの?」

やっと話が終わらせられると、少し安心した様子の吹雪だが、俺はこれで終わらせる気はない。

「…もういいかな?」
「吹雪。」
「なに?」
「吹雪、…セックスしよう。」
「え?…え、あ、豪炎寺くん!」

セックス、という単語に明らかに反応した隙を狙って一気にユニフォームをたくし上げると、吹雪は咄嗟に逃げ出そうと身体をよじる。その肩を掴んでうつ伏せに抑えつけると暴れる両手首を後ろ手に捕まえてあらかじめ用意していた手枷をポケットから取り出して嵌めた。跨って体重をかければもう動くことは出来ない。あまりの出来事に目を見張る吹雪だが、それもまた勝手な固定観念で作り上げた俺が現実だと信じていたせいだ。本当の俺なんか吹雪が知るはずもない。逆に、知っていたならこうはならなかっただろう。

「豪炎寺くん、…や、やめ、て」

怯えた表情で見上げてくる吹雪の頭を押さえつけて耳元で囁いた。

「聞き忘れた。俺のこと、どう思う?」
「豪炎寺くんの、こと?」

微かに震えているのが声で伝わる。答えは聞かずとも分かっている。吹雪の口から聞きたいだけだ。そうすれば俺は本当に全てを吹雪のせいに出来る。

「豪炎寺、くんは…仲間で友達で…」
「…そうか。」

そうだよな。それが聞きたかったんだ。
ここで今更俺が好きだとか言われたら、おれは自分を責めなくてはならない。セックスしよう。という言葉は少し言い違えたかもしれない。なぜなら俺は

「吹雪を犯そうと思う。」

パッと吹雪の目が開いた。

「や、やめて。ぼく、何かした?」

犯す。という行為が何をするのか吹雪は知っているのだろう。目にはうっすら涙の膜ができているのが分かる。あぁ、かわいそうだ。剥き出しの背中をツゥとなぞると吹雪はピクッと肩を揺らした。

「犯すならそれなりのセオリーに沿ってやらないとだよな。」
「ごめん。…な、何かしたなら謝るよ!だから、豪炎寺く、…いたっ」

がりっと背中に歯を立てる。俺の跡を残しておかないとな。この穢れがない白い肌が自分のものにできると思うと自然と口角が上がる。大丈夫だ。犯すっていっても優しくする。まるで恋人にするかのように抱いてやるから。染岡の事なんか考えられないくらい、優しくしてやる。それが吹雪に対する俺の制裁だ。

遅いかもしれないが、俺も吹雪と同じことをしているのかもしれない。
俺も言わなかった。俺は吹雪に振り向いて欲しかったんだ。好きなんだ。
もう、言えないけど。






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