2話
僕は声が上手く出せない。
悪いって言ってもまったく話せないじゃないし、一時的なものだと医者から言われた。
ただ去年からは頻繁に起きるようになって、酷い目眩も同発するようになっていた。
原因は心因性らしくて、家族を失った事故のショックと、引き取られた親戚との関係があんまり上手くいってなかった事からだと思うんだ。
引き取られた時から、義父さんの僕に対する目は何処かおかしかった。
理由は分からないけど、何度か迫られて、抵抗したら殴られた事だってあった。
なんとか逃れて部屋に籠る日も少なくなかった
でも義母さんには言えなかった。
義母さんは義父さんの事を本当に好きで、大事に思っていたから…
だから僕は、家庭までを壊してしまわないようにと家を出た。
独り身の僕に良くしてくれたのに反発するようで本当に申し訳ない気持ちがあったけど
きっとこれ以上いたら迷惑をかけてしまうと思う。
幸い家を出るといういきなりの決断を、義母さんは止めなかった。きっと心のどこかで僕に対する義父さんの行動に気づいていたのかもしれない。
とにかく、僕はもう戻れないんだ。
新しい高校では静かに過ごして、ひとりでしっかり生計を立てないと。
雷門高校は友達からの進めで、半ばなげやりな気持ちで入ったけど直ぐに気に入った。
やっぱり編入生は珍しいのか最初こそ噂は立てられたけど、手話が出来る仲の良い友達もできて充実していた。
なのに、
編入して一週間。
僕はある男子の先輩に付きまとわれていた。
今日だって、下駄箱に入っていた手紙通り裏校舎に来てみれば、あの先輩だ。
好意を持ってくれるのは嬉しいけど、ここまでだとちょっと困ってしまう。
人とのコミュニケーションはそこまで得意じゃない。
それに手話が通じないんだ。
一方通行の相手なんて、いづれ愛想をつかされてしまうだろう
本当のところ、それが一番怖かった。
先輩に断りを入れ、足早に校門へ向かう
途中、人にぶつかってしまった。
俯いて歩いていたのが悪かった。
相手は知らない人
僕は焦って頭を下げ、直ぐに校門へ向かった。
頭を下げたにしろ、謝罪の言葉も言わないなんて
相手に嫌悪感を持たせてしまったかもしれない。
やっぱり言葉の壁は大きいな…
次会えたら、ちゃんと謝ろう