18話


僕はキスで目が覚めた。

寝ぼけて豪炎寺くんに寄り添うように眠ってしまったことを僕は全然覚えていない。ただ寝ている間、暖かいなにかに守られているような…確かな安心感に包まれていた気がする。唇の柔らかい感触に意識を覚醒させられたとき、と豪炎寺くんの顔が近くにあって、キスしてた。

「……!わるいっ…。」

すぐに離れたけど、僕の中ではすごく長く感じた。豪炎寺くんは慌てて起き上がると急いで朝食を作りにキッチンへ行ってしまった。部屋には僕と、僕の中によく分からないモヤモヤした感情だけが残された。

まだ後を引く眠気に目を擦りながら働かない頭で精一杯今の状態について考える。

僕どうして豪炎寺くんと一緒に寝たんだっけ…キスまでして……。
………ぼく、もしかして寝ぼけて告白しちゃったりした!?
顔が一気に熱くなる。

で、でもさっきの反応を見ると違うのかな…?
だって豪炎寺くんの本物の愛情を受けられるのは、あの子だけだから。さっき謝ったのは、あの子に後ろめたさを感じたからだよね。

でもなんでキスなんて…


あー、思考回路がぐちゃぐちゃして眠くなってきた。
ふいに壁にかけてあるカレンダーに目を向けると、今日が祝日であることに気がついた。
あ、そうだ。今日は体育祭の係りでポスターの色塗りしなきゃいけないんだった。
僕はむくりと身体を起こした。




「吹雪、牛乳とココアどっちが好きだ?」

リビングへ行くと豪炎寺くんが朝食を作っていた。
ココアパウダーが入った袋を指差すと、わかった。とスプーン二杯分をすくってコップへと入れた。

「もう少しで出来るから、顔洗ってこい。」

言われるまま僕はあくびをしながら洗面所へ向かった。
なんか、いつも通りな感じ…?ならいいんだけど…。記憶があやふやなだけに心配になる。




「九時過ぎに妹を迎えに行かなきゃいけないんだ。」

朝食のフレンチトーストを食べながら、豪炎寺くんは今日の予定を話始めた。

豪炎寺くんには小1の妹がいるらしい。
昨日は友達の家にお泊まりだったみたいで、今日はその友達の子が豪炎寺くんの家にお泊まりに来る予定だ。
それを聞いて。あぁ、お風呂にあったアヒルは妹のか!と僕は心の中でひとり納得した。

ちょうど僕も学校に行かなきゃだし、とメールを送ると「途中だから送ってく。」と言葉で返ってきた。けど僕は「食べ終わったらすぐ行くから」とやんわり断った。

それから乾燥機にかけられていた制服に腕を通して時計を見れば7時35分を過ぎていた。
学校は7時から空いているし、ちょっと早めに行って早めに切り上げよう。と考えていたとき、当たり前のように、同じ制服に着替えていた豪炎寺くんに「今日学校ないよ?」と伝えたらそうだった。と生活習慣の染み付きに驚いていた。


「本当に大丈夫か?」

マンションの入り口まで見送りに来てくれた豪炎寺くんに何度目かの質問をされる。
確かにここらへんの土地は初めてだけど、川を上ってって橋を渡れば何とかなるだろうし、方向音痴ではないから辿り着ける自信があった。

お世話になりました。とぺこりと一礼すると手を振ってその場を後にする。
あっさりしてるかもしれないけど、これくらいじゃなきゃ僕は後に引きずるタイプだ。

昨夜とは打って変わって雲ひとつない空の下を歩き始めた。



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