17話


それから寝るまで吹雪の口から言葉が紡がれることはなかった。俺としてはできればもう一度囁いてほしかったが、、きっと出ないところを必死になって出したに違いなかったし、そんな事が言える状況ではなかった。

吹雪の冷えきった身体を布団に迎え入れた時、当たり前のように抱き締めてしまったのは自分でも驚いた。
だが「わるいっ」と腕を離そうとした時、吹雪の方から胸に顔を埋めてきたんだ。俺はそれを良いことに離しかけていた腕を戻し、身体を引き寄せた。

吹雪は震えていた。その背中を「大丈夫だ、大丈夫」と子供をなだめるように擦ると、腕の中で緊張していた身体から力が抜けていくのがわかった。続けていると安らかな寝息が聞こえてきて、俺も安心して寝た。





朝、時計を手繰り寄せるとまだ5時だ。いつもの癖で目が覚めたのか。

隣を見ると、吹雪の顔の半分は枕に埋もれている。起こさないようにそっと髪を撫でると、見た目通り柔らかく細かった。それから無意識に手を滑らせ頬の感触を楽しむ。


…って。
なにしてんだ、俺。
気がつくとまるで変態みたいな自分の行動に冷や汗が出る。

だが吹雪の頬は掴めそうで掴めないくらいのふにゅっとした感覚で…。もう例えようがないくらいきもちいい。

自分の理性と行動を戦わせていると、吹雪の瞼がうっすら持ち上がった。すぐに手を引っ込める。


だが次の吹雪の行動に俺はとうとう一線を越えてしまった。

吹雪はパッチリまではいかないほどのトロンとした寝ぼけ眼のまま俺の首に腕を回して顔を引き寄せ、男にこんな表現は失礼かもしれないが本当に可愛く「おはよう。」と囁いてくれたんだ。まるで天使のような表情で。

それが俺にはすごく嬉しかったんだ。思わずその唇を奪ってしてしまうほどに。


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