13話
さむい、さむい、さむい。
………あったかい?
意識が徐々に戻ってくるのが分かって、ゆっくり目を開けると。
「吹雪!大丈夫か!?」
豪炎寺くんがいた。
え!?なんで?あれ?僕、、、??
辺りを見回すと何故か浴槽に浸かっているのが分かった。自分の身体を見ると服を着たままでさらに混乱する。
「お前、あんな所にいたら危ないだろ。はぁ…でも、良かった。」
豪炎寺くんはシャワーを止めて僕を見つめた。そのままちょっとの間ボーッとしていたけど、ある瞬間にそういえば!って、橋の下にいたのを思い出した。
けど、どうしてもそれと豪炎寺くんが結び付かない。
「…ぁ……ぁの……!?」
豪炎寺くんに、どうして僕はここにいるのか聞くつもりだった。なのに、おかしい…。
「ん?どうした?」
「………ぁ…ぅ……」
……まさか、嘘だろ。
お湯に浸かっていて暖かいはずなのに、身体の芯から冷えていくのがわかった。
こんな肝心な時に声が出ないなんて。
それをよそに豪炎寺くんは僕の様子がよく分からない感じだ。そういえば僕が声が出るようになったのしらないんだっけ。
…本当は君に一番聞いてほしかったのに。
「身体、洗うよな。俺リビングにいるから。」
その言葉に頷くと、豪炎寺くんは風呂場から出ていった。
いきなりの事が多すぎてぐるぐるしていた脳をひとまず休ませる。
いったいどうやって僕をここまで運んだんだろう。
声だって、昼間は出ていたのに。考えたらなんだか無性に悔しくなってきた。
とりあえず浴槽から上がって濡れた服を脱ぐ、そんなに汚れてはいないはずだけど、いったんお湯を落として汲み直す事にした。
シャワーを頭から浴びる。
ここはきっと豪炎寺くん家、だよね…?
シャンプーやリンスの洗剤類の隣に小さいゴムのアヒルがいて思わず微笑んでしまった。
不思議なことに。失恋したばかりでそばにいるのは辛いはずなのに、なぜか僕はいま希望を持ってしまっているんだ。
夢心地って言うのかな。なんだか現実って感じがしないんだよね。
だって、豪炎寺くんは試合が終わった後はきっとあの子と帰っただろうし、もし通りかかったのだとしてもあの嵐の中土手から橋の下が見えるわけない。考えても、豪炎寺くんから僕にたどり着くルートをどんなに探しても見当たらないんだ。
君が僕を探していた場合以外は……。
でもそんなのありえない。話したいならメールすればいいし、もし返って来なかったとしても本人を探しになんて普通来ない。
やっぱりこれは夢なんだ。
僕が豪炎寺くんを好きだったから、幸せになりたいばかりに都合の良い夢を見てるんだ。
現実の僕の身体はまだ河川敷の橋の下にあって、誰にも見つけられる事なく雨に濡れて倒れているに違いない。
でも、それならそれでいい。
夢の中なら誰にも迷惑かけないし、声が出せないのは前からだったし、きっと想いは僕の心の中に閉じ込めておけって事だよね。思わず伝えてしまわないように。
だからせめて今だけでいい。
今だけ、本当の夢を見させて。