12話


吹雪が帰っていないと聞いたのは、西田を家に送り届け自分も家に着いた時だった。

携帯に入っていた風丸からの留守電を聞いてすぐに家を飛び出した。帰りに吹雪の家に寄ったが不在だったらしい。
こんな天気に外に出かけるとは思えないし、吹雪は"帰る"と言っていたらしい。過保護かもしれないが、無事ならそれでいい。

外は嵐のような天気になっていて傘なんてあって無いような物だから置いてきた。
雨風が身体を打つ。

俺は吹雪の家を知らない。風丸に聞く余裕もなくとにかく走った。


そして、見つけた。

「吹雪!吹雪、大丈夫か!?」

橋の下で蹲る吹雪は意識を飛ばしていて、身体もだいぶ冷えていた。このままでは不味い。何か暖められそうな物は持っていないし自分も雨で濡れきっている。

「吹雪、…吹雪」

焦る気持ちを押さえ、吹雪をおぶる。背中の体温をどんどん吹雪に奪われる。

早く、家に帰らないと。


土手に上がったとき、一台のリムジンが脇に止まった。

「豪炎寺、どうしたんだ。こんな天気に……!」

「鬼道!悪い、乗せてくれないか!?」

乗っていたのは鬼道だった。俺の必死さに一瞬驚いた表情をしたが、「あぁ。かまわないぞ」と俺たちを乗せてくれた。頼んどいてなんだが濡れた身体でシーツに座るのは本当に気が引けた。

「…にしても珍しいな。お前が物を頼んでくるなんて。」
「あぁ、吹雪が…」

肩にもたれるようにぐったりする吹雪をチラと見る。

「大丈夫なのか?…なんなら医者を紹介するぞ。」
「いや、いいんだ。家でゆっくり休ませる。」
「そうか…。」

鬼道は物珍しそうな目で吹雪を見る。俺があまり人を連れているのを見ないからだろうか。


「いきなり悪かったな。」
「あぁ。かりは次のテスト期間に返してくれ。」

俺をマンションのエントランス前まで送ると、何事もなかったかのように去っていった。しばらくは頭が上がらないな。
それからすぐに自分の階まで走った。吹雪をすぐに暖めないと…!

ドアを開け自分と吹雪の靴を脱ぎ捨てて風呂の湯壺に吹雪を入れ、服の上からシャワーをかけてやる。こういうとき何が一番効果的何だろうか。湯船にお湯をはりながら考える。

「……ん、…」

腰までお湯がたまったところでうっすら吹雪の目が開いた。

「吹雪!大丈夫か!?」
「…………。」

回りをぼぅっと見回して、最後に俺を見ると「?」と言う顔をしてきた。気持ちはたぶんまだ橋の下にいるんだろう。

「お前、あんな所にいたら危ないだろ。はぁ…でも、良かった。」

自分の頭をガシガシし掻いていると、ポカンとしていた吹雪もやっと思い出したようだ。

「…ぁ……ぁの……!?」
「ん?どうした?」
「………ぁ…ぅ……」

何か話そうとするが言葉が紡がれる事はない。それはいつもの事だが、いまは何か様子が違った。
…まるで自分が話せないことに驚いているような。

「身体、洗うよな。俺リビングにいるから。」

ひとまず意識が戻って、身体も動かせるようだ。
俺も勢い任せで行動し過ぎたのをいったんクールダウンさせよう。
吹雪も状況をなんとなく理解したようで、うん。とうなずいた。

風呂の扉を閉め、持ってきたバスタオルで頭を拭く。着替えはとりあえず俺のを置いといた。
カチッとつけたテレビから大型台風の上陸状況が伝えられている。警報も出ていて、今夜が山場らしい。
どうするか…。泊めるなら吹雪の家に電話を入れさせないとな。

とりあえず夕飯は取るだろうと、キッチンに立つ。

「……は、…くしょん!」

あぁ、振り返ると恥ずかしいな。誰かのためにあんなに必死に走って…

ずびっと鼻をすすりながら、風呂の方に無意識に目がいっていた。


今夜、吹雪とふたりか…。




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