9話
西田から連絡が来たのは試合の二日前だった。
練習終わりにいきなり電話が来て会いたいと言ってきた。気づかなかったがアイツも雷門高らしい。
西田とは中学の時に付き合っていた。告白してきたのは西田の方だった。今考えるとあの頃の俺達は幼かったな…。
お互い"付き合う"という意味を理解していなかったんだ。アイツは学校で少しばかり名が知れた人と一緒になりたかっただけで、俺はただ自分の中で"特別な人"という枠を作りたかっただけなのかもしれない。
結局そんな恋とも呼べない恋は静かに消えていった。
そう思っていた。
お互い大人になったと…
だがそれは俺の一方的な思い込みだったようで、アイツは俺の事を彼氏だと言いはってきた。まぁ確かにはっきり「別れる。」と言った訳じゃないが……
「そこは男と女の子の違いだね。」
「一年も連絡取ってないのにか?」
とりあえずこういう方向に経験豊富そうな基山に相談してみることにした。
「やだなぁ。女の子ってのは夢見る生き物なんだよ。身体は離れていても心はひとつ!…って感じで。」
身体って……、そんないかがわしい行為した覚えはないんだが。
「それはお互い想いあってた場合だろ。」
「彼女は君のこと好きみたいだけど。」
「どうだかな…。アイツの好きはlikeの方だろ。」
「でも彼女はそれに気づいてないよ。自分の気持ちをloveだと思ってる。」
…すれ違いだな。いや、すれ違ってはいないのか。早く自分の本当の気持ちに気づいてくれればいいんだが。
「とりあえずその気がないならきっぱり言っちゃった方が彼女のためだよ。」
「…そうだな。」
明後日まで部の練習に出なきゃいけないし、会うのは試合が終わったらだな。
でも、しばらく会っていなかったのにいきなり会おうなんて変な話だよな。周りに言いふらされたら色々ややこしくなりそうだ。
「そうそう。変な噂が流れる前に早くケリつけないと、まごまごしてる間に吹雪くん取られちゃうかもしれないしね!」
「そうだな。……………は!?//」
こいつ、何言って…//
「なに。気づかれてないとでも思ってたのかい?」
「いや、そういう訳じゃないが…。………変だと思わないのか?」
「へん?どうしてさ。」
どうしてって。
色々問題あるだろ。いろいろ…
「確かに最初は驚いたよ。男ってのもあるけどさ、君が本気で人を好きになる事なんてあるんだなーって。」
「………。」
「まぁいいけど。吹雪くんこの間見たとき誰かから呼び出されてたみたいだし、君に視線が向いてるうちにちゃんと捕まえなよ。」
じゃあね。と去っていった基山の背中をしばらく眺めていた。
俺が吹雪を友達だと思えなかったのは既に違う感情が芽生えていたから…。
この会話をしたのは土曜日の午前講習の後だった。
基山の言う通り焦った方がいいのかもしれない。思えば俺は吹雪の事をそんなに知らない。
クラスは12組で名簿は31
好きな食べ物は味噌ラーメン。そんなに会えないがたまに見せる笑顔が可愛くて、惹かれて…
もっと吹雪の事を知りたい。もっと俺の事も知ってほしい。
だから日曜日、今までより少し近づいてみるつもりだった。
なのに今、俺の隣には俺の傘に入る西田がいる。