距離感=r


「僕が噂で何て言われてるか知ってる? シロガネ山に潜む孤独なチャンピオンだってさ、いっやぁー照れるなー」

 今日も今日とてレッドはトキワジムまでやってきてはお菓子をボリボリと食べつつつまらない話をする。
 いつもは邪魔だって言ってすぐにおっぱらうんだけど、今日に限って誰も挑戦者がいなくて暇だった。だから暇つぶしに、レッドのむさぼっているお菓子を口に運びながらも放置する事にした。

「時々僕のファンだって女の子が麓のポケモンセンターにプレゼント置いて行くんだよ」
「へー」
「僕もそろそろお年頃だしさ、ちょっと考えてみても良いかーなーんて」
「……お前のその性格知ったら即逃げられると思うけどな」
「なんでだよ!」

 そうだ、お前はナルシストで中二病でほんとどうしようもないヤツだ。真面目にジムでリーダーやってる俺のが絶対カッコイイ。
 なのに、なんでだ。なんで俺は昔っからこんなヤツが好きなんだよ!

「あのなぁレッド――っ!?」
「はいざんねーん」

 レッドに詰め寄って今日こそ言ってやろうと思ったのに、無駄に強い力で肩を押されて、結局俺は尻餅をついてしまっていた。
 「掴みかかろうったってそうはいかねぇよ」と上で笑ってるレッドは本当にどうしようもない鈍感ヤローだ。

「あれ? グリーン、何処行くんだよ」
「今日はもうジム閉める、どーせ誰も来なさそうだし」
「マジで!? じゃあ夕飯の材料買って早くグリーンのアパート行こうぜ!」

 戸締まりをする俺を早く早くとレッドが急かす。

「……お前さぁ、また俺のベッドで寝る気かよ」
「なんだよケチ。別に二人で寝ても余裕なんだからいいだろ」
「そういう問題じゃなくてだな!」

 俺は毎晩毎晩眠れない思いしてるってのに! 目の前のレッドは俺の気持ちなんて知らずに、不思議そうにバカ面下げてるだけだ。
 一回こいつほんとに無理矢理押し倒してやろうか、とか思った事があったけど、後が怖いというか即座に反撃されてボコボコにされそうなのでやめた。

(……一番は嫌われるのが怖いからか)

 一番心の許せる幼なじみでライバル、そんなポジションを手放したくない俺がいる。

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