トウヤ観察日記


 10時18分:起床

 元々昼夜逆転生活をしていたトウヤが起きるのは、旅に出てからも大体このくらいの時間だ。
 昨日も遅くまでゲームをやっていていた所為か眠そうだ。ポケモンセンターの共用の手洗い場でちょいちょい水を付けてと顔を洗えば、目を閉じたまま手探りでタオルを探す。
 僕がスマートにそれを手渡してあげて好感度アップというのも捨てがたいけど、その様子が実に可愛かったのでそのまま眺めておく事にした。

 10時50分:朝食

 トウヤは朝はいつもパン食だ。
 ハムとチーズを乗せたトーストをかじりながら、何やらテレビを真剣に見ている。あ、なんだ。新しいゲームのCMか。

 11時30分:フレンドリィショップで買い物

 次の町までは結構距離があるから、どうやら回復アイテムなんかを揃える事にしたようだ。さっきからシルバースプレーを大量に買い物カゴに入れている。
 流石だなトウヤ、確かにイッシュ地方の草むらはちょっとどうなのよって思うくらい野生のポケモンの出現率が高い。スプレー系は必須と言えるだろう。
 しかしあまりスプレーに頼りすぎると手持ちのレベルがなかなか上がらず後で困る事に……あれっ? トウヤは何処に……ああ、なんだ。ワゴンセールを見てたのか。

 ワゴンの中には値下げされたゲームソフトが大量に入っていた。あれ、フレンドリィショップってゲームソフト取り扱ってたっけ? うん、まぁいいや。ちょっと店員が冒険してみたとかそういう事に違いない。
 そうそう、トウヤ。ゲームは一旦置いておいて、もう一度旅のアイテムのコーナーに――あぁああー! シルバースプレーを全部戻した! ということはまさか……やっぱり! ゲームソフトまとめてカゴに入れやがった! 旅の途中で! 何ほくほく顔してるんだよ、可愛いけど後で困るのはトウヤだからな!

 13時半:ゲームに没頭

 公園のベンチに座って一人でゲームを始めて以来全く動く様子がない。あれ、今日って次の町に向けて出発するんじゃなかったのか?
 昼食もカロリーメイトで軽く済ませて動く様子もないし、僕のお腹も限界寸前だ。くそ、僕もさっきフレンドリィショップ行った時に何か食べるもの買っておけば良かった。
 どうせ今日はこのまま動きも無いだろうし、ちょっとトウヤから離れて食事を取って来ても良いかな……

「あっ、トウヤ! ねえねえ何してるの?」

 と思った所で出てくるベル、タイミング良いなくそ!
 この二人を二人っきりにさせる訳にはいかない、ということで観察続行! というか何でトウヤはベルが来ただけでそんな嬉しそうな顔してるのさ、僕が話しかけてもそんな顔してくれた事ない癖に!

「あのね、さっきやっとヒウンアイス買えたんだよ。トウヤも食べる?」
「え、いや、いいよ。ベルが全部食べなよ」
「えーいいよぉ、絶対美味しいからちょっと食べてみなよ」

 無理矢理トウヤの口元にアイスを近づけるベル。
 トウヤもトウヤだ、幼なじみと間接キスくらいで何赤くなってるんだ! 昔散々したじゃないか! いやいやでもトウヤの唇は僕だけのものだから絶対に渡しはしないけど!

「あれ? トウヤにベル、二人してこんな所でどうしたんだい?」
「え? あっ、チェレン! ねえねえチェレンもアイス食べる?」

 結局見ていられなくなって、急いで公園の入り口に移動して丁度今来ましたな体で二人に声を掛ける。
 ふっ、流石僕。なかなかの演技だな。ベルはばっちり騙されて……あれ、なんでトウヤはそんなに睨みつけるような目で僕を見てるのかな。あはは、そんなに見つめられると流石にちょっと照れちゃうよ。

「僕はいいよ。それより二人とも、いつまでヒウンシティに滞在してる気だい」
「だってヒウンシティっておっきくってまだ全部見て回れてないんだもん。そうだ、昨日ケーキがすっごく美味しいカフェ見つけたんだ! これからみんなで行こうよ」
「いや、僕は……」

 断ろうとした所で、僕のお腹が豪快に音を立てた。くそ、昼食抜いてる時に食べ物の話なんてするから……! トウヤの視線が痛い、っていうか何で僕が来てから一言も言葉を発さないんだ。久しぶりの再会で照れてるって事か? そうだなそうだよな。

「チェレンもお腹空いてるみたいだし早く行こっ! はやくはやく、こっちだよ」

 えへへと女の子らしい笑顔を浮かべて先に歩いていくベル。
 それを見てトウヤも立ち上がれば、ベルの後ろをついていく。

「全く面倒だけど、仕方ないな」
「……お前さぁ」
「ん? 何だい」
「バレてねぇと思ってるんだろうけど人の事尾行すんのもうやめろよな」
「…………」

 おっと、思わず眼鏡がずり落ちてしまった。
 一体いつから気づいていたんだろう、僕の尾行は完璧な筈なのに。
 でも気付いていながらも何も言わなかったって事は嫌じゃなかったイコール僕の事が好きって事!? そうか、そうだったのか!

「ふふふ」
「き、きしょ……」
「それでトウヤ、何で僕が尾行していたのかはわかるかい?」
「……? ライバルの弱点を探る為、とか?」
「……っ!!」

 聞いたかい今の! なんて鈍感! なんて純粋! ゲームとバトルの事しか興味がないまさにピュアな僕の妖精さん! やばい、鼻血出そう落ち着け落ち着け。

「もーう、二人とも遅いよぉ! 早くしないと今日のおすすめ売り切れちゃう」
「ご、ごめんベル」

 急いでベルに駆け寄るトウヤ。
 今は幼なじみとしか思われてなくっても、いつかちゃんと気持ちを伝えてキミを僕の物にしてあげるから。
 だからそれまで……尾行続行。

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