02



 クチバシティに着いたのは7時頃だった。
 昨日は結局寝れなかったから目が痛い、さっさとジョウト行きの切符を買って船の中で寝よう。
 そう思ってフレンドリィショップの自動購入機へと向かったが、船は既に6時に出たばかりで次の出港は10時のようだ。

(まぁ、それまでポケモンセンターで休ませて貰えばいっか。で、その前に朝食済ませて……)
「オー、ファイアじゃないですカ。珍しいね、こんな所で何やってるですか?」
「…………」

 後ろから聞こえてくる変なガイジンみたいな声は、きっと俺に宛てたものじゃない。俺の名前を呼んでるけど、俺の名前とおんなじ人がフレンドリィショップ内に他にいるんだ。
 そう脳内で一人納得すれば、さっさと切符の購入手続きを済ませる。

「オイ、無視はねぇんじゃねーのか?」
「うっさいなぁ……」

 いきなり流暢な日本語になった変なガイジン、もといマチスは外に出ようとする俺の肩をがしりと掴んだ。
 離せよ、と無駄についた筋肉でゴツゴツしている腕を振り払う。けれどマチスはピュウ、と口笛を吹いてそのまま俺の後をついてくる。

「人見知りの坊ちゃんがジョウトに何の用だ?」
「別に関係ないだろ」
「いつまで経ってもリーグに挑戦出来ないから弱っちいジョウトに逃げるってか」
「……」

 わかってんなら聞くなよ! ギンと無言でマチスを睨みつけるが、そんなの全くきいていない様子でマチスは楽しそうに笑う。
 その人を馬鹿にしたような表情、喋り方、コイツは全部がキライだ。別に逃げでジョウトに行く訳じゃない。

「いらっしゃいませ、2名様ですか?」
「1人です!」

 朝食を取りに入った飲食店の店員の言葉に、コイツと一緒にされたくなくって思わず強い口調で言ってしまった。
 やべ、やつあたり。と思って顔をあげれば、店員さんが困ったような顔で笑っていた。

「申し訳ありません、只今店内が大変混雑しておりまして。出来れば相席をお願いしたいのですが……」

 店員の言葉に、思わず顔をしかめてしまった。
 コイツと相席になるくらいなら、他の店に行った方が良いかも。
 じゃあ良いです、言おうとした時またマチスが俺の肩を掴んで自分の方へと体を引き寄せた。

「オー、ごめんなさいネ。この子ちょっといじけてるだけ、相席でオーケー」
「おい、ちょっと――」
「奥の部屋座りますヨ」

 マチスにずるずると引きずられて、空いてる席へと連れていかれた。
 まぁ、コイツと喋らないでさっさと食べて出ればいいんだ。ちょっとの間の我慢、と椅子に腰を下ろしたけれどマチスが足を伸ばして座っている所為で狭くて仕方がない。

 料理を注文してしまえば、それを待つまでの時間が長い。
 なるべくマチスと目を合わせないように、グリーンに貰ったポケギアに視線を送った。

「兄貴のレッドは1年もかからずにリーグを制覇したってのになぁ」
「……」
「同じ兄弟で似たようなポケモン使ってるのに、何でこうも違うのやら。ま、その理由がわからんでもないけどな」
「……くっ、なんだよさっきから! 話しかけるなよ!」
「おっと、独り言が聞こえてたか? 悪いなぁ」

 くっくっく、相変わらず憎たらしいくらい楽しそうに笑うマチス。
 いい加減腹が立って、足下にあるマチスの足を思いっきり踏んづけてやれば「いってぇ!」と声を上げてマチスは立ち上がった。
 周りの不振がる視線に「オー、なんでもないデスヨー。ソーリーソーリー」とまた変な口調で言って椅子に座った。いい気味だ。

「てめぇなぁ……!」
「何、どうかした?」
「……フンッ、性格悪ぃヤツだな。どうりでピチューが進化しない訳だ」
「は? なにそれ、どういう意味?」

 なんでいきなりピチューの話になるんだ。
 不思議がって思わず普通に聞いてみれば、飲んでいた水をドンとテーブルの上に置いてニヤリとマチスが笑った。

「ヘイ、ボーイ。ピチューがどうやってピカチュウに進化するか知ってるか?」
「……? 雷の石、とか?」
「バーカ、そりゃあライチュウだろ。トレーナーに懐いたら進化するんだよ」
「……っ」

 ぞくり、急に背筋が冷たくなった。
 ポケットの中に入ったモンスターボールに手を添える、この時間はまだピチューは眠っているかな。

「お前そのピチューを手に入れてからどのくらい経つ?」
「2年……くらい」
「そいつは相当レベルが高いし、普通なら進化しててもおかしくない。それなのに進化してないのは……なんでだろうなぁ?」

 何も言えずに黙り込んでいれば、注文していた料理が運ばれてきて、マチスはさっさと食べ始めた。
 俺はそれに手を付ける気になんてなれず、膝の上でぎゅっと握った手をずっと見下ろしてた。

「お前、表面上では仲良し兄弟やってる癖に本当は兄貴の事敵視してるんだろ」
「ち、違う!」
「違くねぇだろ? 自分と違って明るくて人に囲まれていて、自分では出来なかった事を簡単に成し遂げた。その癖早々にチャンピオンの座を辞退したレッドが憎い、そう思ってんだろ」
「そんな事……」
「じゃあ何でそのピチューはいつまで経っても懐かないんだ? あの兄貴に貰ったポケモンなんて、って心のどっかで思っちゃいねぇか?」
「……っ!!」

 バンッ! 思い切りテーブルに手を打ち付けて立ち上がる。自分の分の料金を置いて、リュックを背負って。早足で出口へと向かう。

「おい、食わねぇのか?」
「いらない!」
「じゃあ俺が食っちまおう、悪いねぇ」

 むかつく、むかつく、むかつく! 
 俺の事なんかなんにも知らないくせに、なんでお前なんかがつっかかってくるんだ。

 外に出て、岸辺に座り込んでピチューのモンスターボールを取り出した。
 けど中からピチューを出す事は出来なくて、ボールのままぎゅっと両手で握りしめる。
 ああ、今日は眠れそうにない。


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