「言え。僕が好きだろ?」
「…ハッ!」
腕を引かれ降り積もった雪原に引き倒された。雪がまるで花びらの様に波打ち、俺の体の半分を埋めた。いきなり現れたと思えばとんだ戯言。なんてくだらない。
洞窟の王者は気が狂ってしまわれたか。そんな皮肉を言ってやろうと思ったが、そんな言葉届くわけがない。そうだコイツ馬鹿なんじゃないのか。俺がお前なんかを好きだなんて言うわけがない。そんなくだらない愛のタワゴトを言ってやるくらいなら、崖から飛び降りてやろう。
レッドは俺が何を考えているのかわかったのか、ニヤリと口端を釣り上げて、闇色の黒い瞳を細めた。まるで餌を見つけたペルシアンのように、獰猛で餓えた眼だ。
「言えよ。僕が好きだろ?」
「言うくらいなら、死んだ方がマシだ」
「君は馬鹿なの?」
「お前が馬鹿なんだよ、ッて」
「いいや君が馬鹿なんだきっと」
馬鹿だ馬鹿じゃないの繰り返しをして、マウントポジションに思いきり座りこまれた。ふざけやがって!
俺はレッドが嫌いだ。大嫌いだ。手持ちをわざと模倣してやったのは、能力は俺が上だとわからせてやるため。俺が赤い帽子に上着を着るのはレッドの存在を食ってやろうとしたから。俺がピカチュウを連れ歩くのは、俺の方が絶対的に最強だとわからせてやるため。俺はレッドが嫌いだ大嫌いだ。俺はファイアなのにみなレッドばかり。俺もマサラタウンから旅立ったのに、皆してレッドばかり!俺は俺で息をして生きているのに誰も俺を見つけてくれない。こんな世界嫌だから山にこもったのに、こんなところで対面するなんて思いもよらなかった。死ねばいい死ねばいい、死ねばいい!!
俺はなんとか状態を片手で起こし、レッドの帽子を奪い取って捨てた。するとレッドは楽しそうな顔をして俺の帽子を奪い同じようにした。俺はますます腹が立った。腹筋と脚力を使ってレッドをなんとか上からどかし、腹に一発蹴りを入れてやる。レッドが痛みで唸り、俺は笑った。楽しくて笑った。
「やられたからには倍返しだよね」
「知るか、っよ!」
拳が俺の顔面めがけて繰り出され軌道を逸らし、俺は足を払おうとする。けれどレッドの足の方が年齢差で長かった。逆に俺はまた雪原に伏せた。さらに男にとって大事な所に踵落しされそうになり、俺は転がって避ける。レッドの足は勢いが付きすぎて雪に埋まった。ざまあむろ。俺はその隙を突いてタックルをかまし、レッドのマウントポジションをとる。さらに俺はレッドの首に手をかける。
「ピカピー!」
レッドのピカチュウが鳴く。悲しみと俺への敵対心でピカチュウがなく。あいにく俺は自分のピカチュウで電撃には慣れている。レッドは憎い。けれどレッドの手持ちには罪はない。なんならコイツを殺してしまった後に俺を殺せばいい。そうすれば俺は
「俺はお前を潰すためにいる」
「君は僕が好きなんだろ?そこまで僕で心をいっぱいにした」
「馬鹿か」
「馬鹿じゃない。君はきっと僕が好きなんだよ。愛と憎悪は表裏一体の紙一重だからね」
「馬鹿だ」
「馬鹿じゃない。なら君は僕の首を絞めてごらん。…出来る訳がない!」
ご名答。俺は手の下で活動する血液と酸素の通り道を塞ごうと足掻くが、どうしてか力が抜けて何も出来ないでいる。ただレッドの上に座り込んでいるだけだ。どうしちまったんだ?
レッドはほら見ろ、と嘲笑した。けれど俺は、どうすればいいか解らなくなった。なんなんだ。意味が解らない。
「さて、良い子だからマサラへ帰ろうね。君のお母さんも幼馴染、皆が心配しているよ」
気付けば俺はレッドに担がれレッドのリザードンの背に揺られていた。俺が何をしたかったか?そんな事俺にもわからない。レッドは肩の荷が下りたようなスッキリとした顔をし、俺はその横顔をただ見つめていた。
永遠の中2病
(全てがどうでもいい)
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