もしもキミが


「シッポウシティまで後どのくらい?」
「そうだな、まあ今日の夕方には着けるんじゃないかな」
「夕方か! じゃあ明日にはシッポウジムに挑戦出来るな!」

 ちょっとでも早く次のジムのある町に行きたくって思わず駆け出したけど、後ろのシゲルはちっとも急ぐ様子がない。
 ゆっくり歩いてるシゲルが俺に追いつくまで、結局その場で足踏みして待つハメになった。

「シゲルーなにしてんだよ、早く行こうぜ」
「急がなくてもジムは逃げないよ。それより、そろそろ昼食の時間だろ」

 そういえばもうそんな時間か。
 昼ご飯の事を考えたらいきなりお腹が空いてきて、静かな森の中にぐーっと間抜けな音が響いた。

「……っくく、どうやらサートシ君もお腹が空いてるみたいだな」
「うっ、うるさいなぁ! さっさと飯にしようぜ!」

 行こうぜピカチュウ! と言って一人で大きな木が見える所まで歩いていくけど、後ろのシゲルはまだ笑ってる。
 あーもう、お腹が空いてるんだからしょうがないだろ! いつまで笑ってんだよ!

「今日のお昼は?」
「今日はラッキーの卵たっぷりサンドイッチ」
「またサンドイッチ〜? 昨日はツナサンドだったじゃん」
「仕方ないだろ、二人とも大した料理も出来ないんだから。それとも、君が作ってくれるのかい?」
「う……いっただきまーす!」

 シゲルの言葉に聞こえないフリをすれば、俺が一気にサンドイッチにかぶりついた。
 それを合図にピカチュウや他のポケモンたちもポケモンフードを食べ始める。

「シゲルは次のジム戦、誰を出すんだ?」
「さぁね、サトシに戦略を真似されたら困るから内緒にしておくよ」
「だーれが真似するって? そんなことしなくったってジムバッジゲットしてやるさ!」
「自信だけは有り余ってるんだけどなぁ」

 シゲルのむかつく視線にいつものように反論をするけど、手元のサンドイッチを取ろうとした手が宙をかいて思わず溜息が出た。
 あーあ、もう終わりかぁ。

「タケシがいればなぁー、腹一杯料理作ってくれるのに」
「フーン?」
「……いや、シゲルとの旅も楽しいけどさ!」
「そう、なら良かった」

 にっこり笑って立ち上がるシゲルにほっとした。
 ピカチュウたちも食べ終わったみたいだし、今度こそシッポウシティに向けて出発だ!

「…………あれっ、」

 いきなり木の天井が写って、うまく頭が回らないまま辺りをキョロキョロ見回した。
 隣ではピカチュウがすうすうと寝息を立てて気持ちよさそうに眠っていて、デントやアイリスが眠っているのも見える。
 そっか、此処はポケモンセンターで、こっちが現実。

「夢か……そっか、そうだよなぁ」

 あははっ、思わず声に出して笑ってしまう。
 ピカチュウが物音と声に一瞬起きそうになったけど、ぽんぽんと背中を叩いてやればまた規則正しい寝息を立て始めた。

 窓の外にはいつかシゲルと見た時みたいな綺麗な満月。
 またシゲルの顔が浮かんで、涙が出ないうちに急いで布団を頭から被った。

(シゲルと一緒に旅なんて、出来る訳ないのにな……)

 イッシュ地方に来る前に、一回くらい会いに行ってくれば良かった。 

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