美術部パロのにょファイver






絵を描くこと。それは俺にとっての唯一の自己表現なのかもしれない。
俺には兄と妹がいる。兄は至って普通の、どこにでもいるような男子高校生だ。人柄良く、勉学も運動もそこそこにこなすどこにでもいるような少年だ。でもいつでも周りは人で溢れていた。妹も同じく、俺とは双子であるはずなのにとても違う。似通っているのは顔の造形と髪色、それから性別くらいだった。妹はとても可愛い。身内の視点であろうと客観的に見ても可愛らしい少女である。風にたなびく長い髪から花の香りでもするんじゃないかと思うくらいだ。
そんな感じに俺には兄と妹がいる。
俺は、絵を描くことが好きだ。先ほども述べたようにそれが唯一の自己表現だからだ。別に引き籠りとかイジメられっ子とか、そんなんじゃあない。昔は公園なんかに言って木登りとか、虫取りだとか、男子に混じってサッカーに野球、なんでも遊びつくした。けれど、それにも終わりがきた。あいつらは俺が女であることを意識し始めた。肉体の異なる成長、精神の年齢につれての精神。俺だけが女子だからといって、はじき出されてしまった。今更妹の友人と混ざって遊ぶには遅すぎた。妹は可愛い。男女ともに人気があり、俺の自慢できる妹だ。
 では俺は?俺はどうなんだろう。俺には特に秀でた才能も学歴もない。ならば俺にとって兄妹や友人、俺自身が誇れることは何なのだろうか?そんな馬鹿な事を思春期の手前に考え始め、気付いたら中学校での絵画コンクールで大臣賞なんてものを受賞していたのだった。
そして高校入学した俺は相変わらず絵を描き続けている。

授業には選択科目がある。美術、音楽、工芸の中から一教科を選択するのだ。俺はもちろん美術にした。理由は油絵具が購入できるからだ。まあ、ほら親の負担ではあるけど…、正直学校で購入した方が安いだろう?そんな下心があったことは秘密だ。
しかし3回目の今日は急な事情で教師が欠席し、自主制作だった。しかし教師のいない時は大惨事だった。女子は女子で描いている子もいるが、やはり教師がいないと気が緩んでしまいがちなのだろう、タオルをかぶってる。なんだか面白い女子達だな。しかし問題はそんな事じゃない、男子が喧しいのだ。お前らは雀かってくらいにうるさい。

「そいや昨日の見た?」
「あー、見た見た」
「ぎゃははは!生はいかんでしょう!」

死ね。とりあえず死ね。
そんな精神が中学生のまま成長を終えてしまったであろう可哀想な(同情に値はしない)男子集団から、一人がそっと抜けた。うわ、こっちくんな。しかもなんか目が合って片手をヒラヒラと降ってきた。

「何描いてんの?」
「あ?」
「それ」
「見て解るだろ」
「紫陽花?綺麗だな」
「…」

何だよコイツ。
そいつはツンツンとした髪型で、色はオレンジがかった茶色。PCCSでいうとD7みたいな色。難しいな言葉で表現するの。絶対染めてんだろそんな明るい茶色頭しやがって。ちなみに俺と妹は地毛だ。色素が少し薄いのだ。兄は真っ黒な髪の毛で本当羨ましいと思う。
じとりと横目で見ると荷物置きに使用している机の席に勝手に座りだした。本当に何なのコイツ。

「俺オーキド・ツネカズ。お前は?」
「…何で?」
「理由なんてねーよ。ははっ」
「…ファイア」
「へえー、カッコイイ名前じゃん。炎!」

なんなんだコイツテンションが異様に高い。異文化コミュニケーションを通り越して宇宙人で対話しているような気分でなってくる。そいつは絵の見本の写真を取り、じっと見つめていた。なんなんだコイツ。急に無言になられても困る。いや、静かになることは良い事だ。俺は静かに下書きを再開させた。
紫陽花は6月を象徴的に表す植物だ。水の性質がアルカリか酸かでずいぶんと色味が違う。絵具なんかよりも難しい色の基準だ。まるで天然のリトマス紙みたいだ。梅雨時の鬱屈した空気を一瞬に取り払ってくれる綺麗な花。その大輪のように見えて実は一つ一つの小さな花弁から成り立ち、一本の根から枝分かれし互いを支えあっている。大きなその葉には人間にとっての毒を含有しているが、小さな生き物たちにとっては大きな傘ともなろう。俺はそんな紫陽花が好きだ。
さていよいよ着彩に入ろうとすると、オーキドなんちゃらと名乗ったソイツは無言で写真を置き、俺の手元をじっとみていた。なんだコイツまだ居座る気かよ。まあ邪魔してこないなら関係ないな。今日は買ったばかりの透明水彩に挑戦しようと思い、カバンからこじんまりとした絵具セットを取り出す。透明水彩はとてもデリケートらしく、すぐに乾燥してしまう。色が乾ききる前に塗らなくてはいけない。あーもう楽しい。パッケージを開けるときに顔が二やついてしまう。

「なあファイア、さん?」
「…、……」
「ファイアさーん?」
「…、……、あ? 」
「授業終わった」
「あ」
「ツネカズー!俺ら先に戻るぜー!」
「おお!」
「…お前も戻れば?」
「いいじゃん、一緒に行こうよ」
「…俺を長髪にしたようなヤツは別のクラスだぞ」
「?何それ」


透明ラプソディー

(リーフリーフ)
(どうしたの)
(今日俺、未知との遭遇した)
(…ええええ?)



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