君がいるなら何もいらない!

「グッリーン君、あっそびーましょー」

 ガキみたいな口調でチャイムも押さずにわざわざノックをして俺が扉を開けるのを待っている馬鹿に苛つきながらも、なんとかそれを堪えて扉を開けた。
 第一声は何て言って怒ってやろうかと考えていたが、ファイアの顔を見たらそんなの吹っ飛んだ。

「ひっでぇな、ツネカズか?」
「おぅ、まぁな」

 左頬に大きなガーゼをつけたファイアは、平気な顔して笑った。けどガーゼから少しはみ出た目元近くに見えるひっかき傷のような物は割と深そうで、見てるだけで背中が痒くなってくる。

「にしても殴るでもなくひっかくって、ニャースかあいつは」
「子供は動揺した時はとっさにひっかく事があるってどっかの本で読んだ事ある、動物的なんだとよ」

 部屋の奥へと足を進めてくれば、テーブルの上に置いてある手を付けてない菓子に気付いたらしくファイアは俺にと視線を向ける。

「もしかして、ツネカズ来てた?」
「あぁ、さっき来たよ」
「あいつめ、今日は手伝い行けつったのに」

 ちっ、と舌打ちをしたかと思えば一言も無しに菓子を食べ始める。全く、忙しいヤツだな。
 つうか、喧嘩の原因はそれか?

「なんで久々にカントーに帰って来たっつのに喧嘩してんだよ」
「喧嘩じゃねーよ、ツネカズが一方的に癇癪起こしてんの。オーキドのじいさんが論文の提出近いからって研究所の方てんてこまいしてんのに、ツネカズは手伝いしねぇで俺と遊びに行くとか言い出すし。それでじいさんの方手伝って来いつったら、これだよ」

 はぁーっ、深いため息。思えばこんなファイアを見るなんて長い付き合いのうち初めてかもしれない。
 初めて見る幼なじみの様子にちょっと戸惑うけど、此処は俺が話を聞き出すしかないか。

「今日の夜の船でジョウト行ったらまた暫く帰って来ないんだろ? 1日くらいツネカズの相手してやってもいいんじゃねぇの」
「それじゃあの甘えたが調子乗る。それに、ツネカズの為にもならない」
「……」

 いつも自分勝手で唯我独尊貫いてる最低な鬼畜野郎かと思ってたけど、意外と人の事考えたりもするんだな。いやー、長年付き合っててこれも初めて知った。
 何やら言いたげなファイアの視線をなんとかスルーしてやり過ごせば、再び本題に戻ろうとファイアを見る。

「遺跡の解析作業はまだ暫く忙しいのか?」
「暫くっつか、終わったらまた他の遺跡に移動して発掘作業が始まるだろうし暇になる事はねぇよ。今はまだジョウトだからこうして時間見つけて戻って来る事も出来るけど、シンオウなんて行ったらそれも難しいし」

 いつの間にか真剣な表情になったファイアは、何処か思い詰めたようで。何か言ってやらねばと口を開くが、それはファイアのが一拍早い。

「俺、ツネカズと別れた方が良いのかなって」

 周りが急にシンとなった気がした。

「そんなの嫌だぁああああ!」
「っ、は!? ツネカズ!?」

 クローゼットから服を土産に勢いよく飛び出して来たツネカズは、服が絡まったままでファイアにと抱きついた。その顔にはぼろぼろと涙が流れてて、何が起きたかまだわかっていないファイアはただ固まるばかりだ。

「おま、ツネカズはさっき来たって――」
「帰ったとは言ってねぇよ」
「押入に隠れてるとも言ってねぇよ!」
「クローゼットな」

 未だ泣きわめていているツネカズをなんとか引き離そうとファイアが応戦するが、すっぽんの如く張り付いたツネカズはなかなか簡単には離れない。
 おー、やるな我が弟。あのファイアを動揺させてるよ。と関心してたらファイアにティッシュ箱投げられた。丁度頭に角が直撃してすげぇ痛い。

「俺、会えなくても我慢するから! ファイアが来れない時は俺が会いに行くから! じーちゃんの手伝いも、ちゃんとやる! だから、だから、別れるとか言うなよな〜〜!」
「わかった、わかったから離れろよ」

 ぽんぽんと背中を叩かれると、ツネカズはまたえんえん泣き出した。
 ま、もう大丈夫そうか。これ以上アホカップルの見物をしてても面白くも何ともないのでテーブルの上にスペアキーを置いて邪魔者は退散するとしよう。

「今度来た時焼き肉奢りな」
「ふざけんな、こっちが奢って貰う方だ!」

 このバカどう収集つけんだよ! 叫ぶファイアの声を背中に浴びながら、パタンと扉を閉めた。さぁてと、俺もアイツに会いに行くかな。



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