ある少年の話


 あるところにレッドという男がいた。

 11歳になった頃、レッドは近所に住んでいたポケモン博士からポケモンを貰い冒険の旅へと出る。
 幼なじみのライバルと競い合いながら段々と強くなっていったそいつは、いつからかロケット団という小マフィアと敵対するようになり、そして壊滅へと追い込んだ。

 バッジを8つ集めたレッドは、晴れてポケモンリーグ入りを果す。
 本来なら新しいチャンピオンとして挑戦者を待つ側となる筈だが、何故だかそいつはそれを辞退した。

 たった11歳でリーグ入りを果たした少年は、その後消息を絶った。
 母親が待つマサラタウンにも戻らず、あれ程競い合っていたライバルにも連絡を入れず。託されたポケモン図鑑も、146匹集めた所で止まっている。

 ……なんて此処まで話してみたが、これは全部聞いた話だ。
 俺は実際そのレッドってヤツに会った事もない、ただ同じマサラに住んでいるから噂話がよく流れてきて耳に入っただけだ。

「あの! もしかして貴方は“あの”レッドさんですか!?」

 シロガネ山の山頂でいつものように修行をしていた時、いきなりそう声を掛けられた。
 ああ、そうか。俺が赤い帽子に赤い上着、青いズボンというレッドとよく似た服装だからあいつと間違えているのか。
 挑戦者は期待に満ちた目で俺を――レッドを見つめている。

「……そうだけど?」

 俺が肯定の言葉を告げると、挑戦者はモンスターボールからポケモンを出してバトルを申し込んできた。勿論答えはイエスだ。

 もし俺がレッドの名を語って挑戦者を倒し続ければそのうち本物のレッドが現れるかもしれない。
 そうしたらバトルをして、どちらが強いのか確かめればいい。バトルで勝った方が本物、俺は本物のレッドになれるんだ。

 シロガネ山に籠もり始めてもうすぐ1年、レッドはまだ現れない。 

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