最弱ニビジム
「よし、そろそろ行ってみるか」
トキワの森で随分と経験値も稼いだし、そろそろジムに挑戦しても良い頃だと思いそうフシギダネに声を掛けてみれば、フシギダネは嬉しそうにその場で飛び跳ねた。最近対人戦をあんまりしてなかったからやぱり嬉しいんだろうな。
町の人に聞いた話だとジムリーダーのタケシが使うのは岩タイプだと言うし、フシギダネがいれば多分そんなに苦労する事もないだろう。
「逆にファイアなんてピカチュウだから手こずってたりしてね」
くす、と笑いながらジムの扉を開ける。丁度ファイアが挑戦しに来てたら面白いんだけど。
けれど残念ながら扉を開けた先には僕の他に挑戦者はいないようで、中にいるのはジムトレーナーが一人。
「あの、ジムに挑戦に……」
「おまっ……いや! 貴方は!」
「え?」
「タケシさん! ファイアがまた出――いや、ファイアさんがいらっしゃいましたー!」
「な、なんだって……!?」
どうやらジムの人たちは僕をファイアと勘違いしてるらしく、もの凄く慌てた様子で座布団やらお茶やらお菓子やらを用意し始める。
流石に悪いと思って「あの、」と控えめに声を掛ければ、案の定二人は勢いよく返事をして僕の元へと駆け寄ってきた。
「はい! 何か気に入らない事でも――」
「僕ファイアじゃないです」
「は?」
ぽかんと固まった後、今度はその細目をこれでもかってくらいカッと見開いて僕の顔をジロジロ眺めてくる。つーか、近い! なんかオッサン臭い!
暫く眺めた後ようやく僕がファイアでないと気付いて安心したのか、二人仲良く息をついた。
「なんだ人違いか……驚かせやがって覚悟は出来てるんだろ――」
「僕ファイアの弟のレッド」
「ファイア様の弟君とも知らずに無礼な発言を……!」
「……」
土下座まで始めた二人がなんだか哀れになってきて、「もういいよ」と言えば再び二人は安堵の表情を浮かべた。
というか何だこの恐怖政治は、ファイアこの二人に何したの。
「アイツ、ファイアは実に恐ろしいトレーナーだった……」
まだ聞いてもいないのに語り出すタケシだったが、とりあえず僕も気になってたし話させておこう。
さっき出して貰ったお茶をずずっと啜る。あ、茶柱。
「ヤツの出してきたポケモンはピカチュウ、話を聞くとソイツの最初に貰ったポケモンだと言うじゃないか。この辺りには岩タイプに有利なポケモンは捕まえられない、これは戦わずに勝利決定! と内心テンション上がりまくりだったんだが……」
「トキワのジムリーダーが硬派な堅物って噂デマだったんだね」
話が長くなりそうだったので茶々を入れてみたが、タケシはそんな事全く気にしていない様子で、「あれは恐ろしいポケモンだった……」と言いながら遠い目をして見せた。
そういえば、ファイアがトキワシティで欲しいポケモンが手に入ったって言ってたっけ。
「で、そのポケモンって?」
「実は……アイツのピカチュウ、波乗りが使えたんだ!」
…………。
「それ、普通にゲット出来ますよ」
「マジで!?」
ポケモンスタジアムで手に入ります。
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