ネヴァーランドはいらない


 今日は俺の幼なじみでありライバルであり友人のレッドの話をしたいと思う。

 レッドの事を一言で表すなら、中二病。これ以上に適切な言葉はないと思う。
 そりゃ確かに俺もガキの頃は結構恥ずかしい台詞とか言ってたし、今では抹消したい過去だったりする。でもそれはあくまで11の頃の話であって、今は違う! ちゃんとジムリーダーの仕事もして落ち着いてるんだ。

「よー、グリーン。風呂貸してくんねー?」

 扉の横に付いているチャイムになんて目もくれず、ノックすらもせずに入ってきた無礼者。そうだ、コイツがレッドだ。
 お前チャイムくらい押せよな、と文句を言いながらレッドを睨んでやるが、レッドはそんな俺の視線なんて全然気にしてない様子で「バスタオル宜しくー」とか言って勝手に風呂場へと入っていく。おい、さっき一応聞いたのは何だったんだ。俺まだOK出してねーよ。

「お前いい加減家に顔出せよな」
「あー?」
「だから、お前の母ちゃんが心配してんだよ。何で連絡の一つも出してやんねーんだ」

 律儀にバスタオルと着替え(レッドの奴は替えなんて持ってないから毎回俺のを貸してやってる)を洗面所に置きに行くついでに、風呂に入っているレッドに尋ねてみる。
 するとレッドはいきなり風呂場の扉を開けて、無駄に良い笑顔で言った。

「だってそっちのがカッコイイだろ」

 …………。
 全裸で前も隠さずにンな事言われても1ミリもカッコイイとは思えねぇよ。(あと髪シャンプーの泡残ってるし)

「相変わらずグリーン料理の腕上がんねぇなー」
「うっせぇ! だったら食うな!」
「まあ食えない事もない」
「てめぇタダ飯食っといてよくもまぁそんな事が言えるな……」

 つうか家主の俺がまだ台所に立って料理作ってるってのに何でお前のが先に食ってんだよ! 手伝え!

「あーそうそう、今日すげぇ強いトレーナーが来たんだよ」
「あ? もしかしてゴールドか?」
「お、やっぱグリーンのとこにも来たんだ。そうそう、洞窟の奥までやってきてさ、俺を見てすげぇ驚いた顔したと思ったら……何て言ったと思う?」

 ぷくくく、腹の立つ笑い方をしながらレッドが何度もそう聞いてくる。
 余りのウザさに洗ってたフライパンを投げようかと思ったが、流石に警察沙汰になってジムリーダーの権利剥奪されるのも癪なのでそこは抑えて。適当に「さあな」と返しておいた。
 するとレッドはニヤニヤと笑みを浮かべて、

「『貴方が伝説のレッドさんですか!?』……だってよ! いやー、参っちゃうよな! 照れるー!」

 だんだんだんだん!
 レッドがちゃぶ台を叩く音が部屋内に響く。ええいうるせぇ! お前の所為でまた明日の朝お隣さんに怒られるじゃねーか!
 今度こそ洗い物を終えてレッドの元へと向かえば、静かにしろ! と思い切り頭を叩いた。あー、やっとすっきりした。

「で? そんだけ上機嫌なら勿論勝ったんだろうな」
「いや? 負けた」
「負け……」
「でも終始無言でミステリアスな雰囲気作っといたから大丈夫だ!」
「誰もンな事心配してねぇよ!」

 ああそうだ、コイツは昔っからこんな奴だった。
 早々にチャンピオンを辞退したって言うから心配して聞いてみたら、「なんか影があるっぽくてカッコよくね?」とか言うし、山で修行とかカッコイイとかそんな理由でシロガネ山に籠もり始めるし。

「あーあー、でも無敗のレッドのイメージ貫いてたからなー。もしゴールドが俺に勝った事言い触らしたら女の子のファン減っちゃうかもな」
「ゴールドはお前みたいに目立ちたがりじゃねーから言い触らしたりしねぇと思うぜ」

 馬鹿はほっといて、俺も早く飯食っちゃおう。
 頂きます、と手を合わせてから飯をつつきつつ、左手でテレビのスイッチを入れた。確か今日は面白そうなドラマが始まる日だったっけ。

「ふーん……」
「なんだよ鬱陶しいな、さっさと飯食えよ」
「グリーンってあのゴールドって奴と仲良いんだ」
「仲良いっつーか、よくジム来るから相手してやってんだよ」
「それだけ?」
「あァ?」

 コイツは一体何が言いたいんだ、それ以外に何がある。
 テレビから視線を外してレッドを睨んでやろうとするが、それよりも先にレッドが俺をじっと見ていて、思わず怯んでしまう。

「グリーン優しいから、こっちはその気がなくても向こうはわかんねーかもよ?」
「そんな事考える馬鹿はお前だけだ馬鹿レッド」

 悪態を付く俺を口を、レッドの口が塞いだ。
 始めは触れるだけ、そして少ししてから見計らったかのようにレッドの舌が進入してきて、深い深いキスに変わる。
 暫くして唇が離れれば、ハァ、と息をついた。

「……男とこんな事してるって知れたらまた女の子のファンが減るぞ」
「そんときゃグリーンとラブラブだってネタでまたファン掴むから問題無い」
「問題なかねぇよ! つかラブラブでもねぇし!」
「またまたご冗談を」

 調子に乗って服に手をかけてくる馬鹿の頭を思い切りぶん殴ってやれば、レッドはぶー、と子供みたいに唇を尖らせた。
 いつまでも中二病が抜けない馬鹿なヤツ。でもそれ以上に馬鹿なのは、こんなヤツが好きで好きでほっとけない俺だと思う。

(俺が世話焼くのはお前だけだ、とは絶対言ってやんねぇ)

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