sweet spot

じーさんの手伝いも今日は殆どする事がなくて、暇を持て余していた俺はファイアの部屋へと来ていた。
けれど学会に提出するレポートがどうたらと言ってファイアはちっとも遊んでくれないし、折角遊びに来たというのに俺はずっと部屋の隅で音を消してゲームをしてるだけだ。
久々に二人っきりになれたってのに、これじゃあ何の意味もないじゃないか。普段から静かにしているのが苦手な俺だから、限界が来るのも早かった。

「あーもう我慢ならん! ファイア、好きだー!」
「あーもううっせぇな、なんだいきなり!」

ばふん!
抱きつこうと大きく広げられた両手は、ファイアによって投げられた抱き枕の所為で空振りに終わった。
俺にぶつかってバウンドした後、床へと転がって歩行を遮断しやがるそれを蹴って隅に追いやれば、今度こそファイアの元へ。

「だってちっとも相手してくんねーんだもん、これは愛を叫んで気を引くしかねぇかと」
「意味わかんねーよお前の思考回路は何年経っても理解できん。そんなもんで俺の気が引けると思ったかクズが」
「別にそんな恥ずかしがんなくったっていーじゃん、誰が見てる訳でもねーし? あ、もしかしてこれが嫌よ嫌よも好きのうちってヤツ? ごめん俺気付かなくって!」
「とか言いながら何さりげなく服に手入れてやがる、死ね変態!」
「ゴファ!」

ファイアの照れ隠しは最早照れ隠しってレベルじゃないと思う。
ちょっとスキンシップしようとしただけで殴るわ蹴るわ、しかもそれが平手とか手加減してとかじゃないから本気で痛い。前に青あざ出来たのに目の前のファイアが満ち足りた顔で笑ってた時は俺どうしようかと思ったもん。

「なに……ファイアはさぁ、俺の事嫌いなの?」
「別に嫌いじゃないけどキモイ」
「良い意味のキモイってどんなだろう……まあいいや、嫌われてないなら」

さっきの攻撃は結構応えたから、今回は抱きつくのはやめとこう。
部屋の隅で空気と化していた抱き枕を拾い上げれば、遠慮なしにファイアのベッドに寝転がって抱き枕に抱きついた。
とりあえず今はこの枕がファイアだと思って我慢……

「ツネカズ、きめぇ」
「何で俺何もしてないのに! つか、え!? 何、読心術!?」
「本気でいかがわしい事考えてたのかよ、一回埋まって来いよ」
「埋まってどうしろと!?」

大人しくしてたのにこの仕打ちとか、俺泣いていいですか? 寧ろ行動して貶された方がちょっとはマシなんじゃないかと思う。

「つーかいかがわしい事って何想像した訳? ファイアったらえっちぃー」
「うざい滅びろ」
「ファイアさんそれ以外の言葉返して頂けませんか」

もうちょっと赤くなるとか焦るとかしてくれたら可愛いと思うんだけどさー、そりゃ無理か? だって今までそんなファイア見た事ねぇもん。
俺が暫く黙っていれば、ファイアは俺から目を離して再び机に向かい始めた。

「なー、それ後どんくらいで終わる?」
「んー……半日くらい」
「そんなに!? えーつまんねーよ、一旦休憩しよーぜ!」
「駄目、明日までに提出なんだよ」

話してる間、ファイアは一度もこっちを振り向かない。
なんだよ、昨日も一昨日も遊んでくれなかった癖に。俺より学会のが大切って訳だ。
へっ、良いよーっだ。別にファイアが遊んでくんなくったって俺は顔広いから他にいくらでも遊び相手いるんだから。それにファイアが冷たいのは今に始まった事じゃねぇしな。

「拗ねんなよ。これ終わったら好きなだけ相手してやっから」
「!」

もう本格的に眠りに入ろうとしていたのに、ファイアの言葉に一気に目が冴える。
見れば、いつもは掛けてない眼鏡を掛けたファイアが俺に向かって笑顔を向けていた。窓から差し込む日差しでキラキラしてる。

「〜〜っ、わかった! 俺終わるまで此処で待ってる!」
「いや、うっとおしいから外行ってろよ」
「待ってるったら待ってる!」
「あーはいはい、しょうがねぇな……」

邪魔だけはすんなよ、そう言って再び机に向かったファイアの背中をじっと眺めた。
昔ほど一緒にいる時間は多くなくなったけど、それでも離れてる分好きだって実感できる。
そんな関係も悪くないなって思った。



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