oxalis



「ピチュー戦闘不能、よってジムリーダーグリーンの勝ち!」

 審判をしていたジムトレーナーの判定を聞けば、すぐにピチューをモンスターボールへと戻した。モンスターボールの上からごめんな、とピチューを撫でればポケットにボールを仕舞って。

「また俺の勝ちだな」
「うっせ、ジムリーダーだったらもっと挑戦者に言葉掛けてやるとかないのかよ」
「つってももう何十回目の挑戦だかわかんねぇしなー。ん? 何百回目だっけ?」
「〜〜っ」

 ジムリーダーになっても変わらないこのむかつく性格、どうにかならないものか。しかも言ってる事は間違ってないから言い返せないのがまたむかつく。(一応言っておくけど、何百回目というのは嘘だ)

「もういい、帰るっ」
「ちょっと待った、裏で茶でも飲んでけよ」
「……でもポケモンたちの回復」
「そんなのうちのジムでやればいいだろ、回復装置もあるし」

 強引に腕をずるずると引っ張られて裏のジムリーダーの控え室へと連れていかれる。もうわかったから! と掴まれた腕を強引に離せば、掴まれていた部分をぎゅっと握る。

「まあいいや、俺もグリーンに用事あったんだった」
「用事? なんだよ」
「うん、実は――」
「グリーン、メシ〜〜」
「…………」

 控え室の扉を開けると、そこには今にも死にそうな兄ちゃんがいた。というかいつの間にシロガネ山から下山したんだろ。
 隣のグリーンを見れば、頭を抱えて深いため息をついている。まあ、そうしたい気持ちもわからなくないけど。

「お前なぁ……いつもいつも下山してくる度にメシたかりにくんじゃねぇよ! ジムリーダーだって結構大変なんだぞ!」
「だってグリーンが食い物持ってきてくれないから」
「俺の話聞いてた!? ジムリーダーって忙しいの! そう頻繁に山登りなんてしてられないの! わかる!?」
「あ、ファイアもいたんだ。久しぶりー」
「……」

 一生懸命お説教してるのに簡単にスルーされるグリーンがほんとに不憫で仕方ない。というかほんと、兄ちゃんにだけはペース持って行かれっぱなしだな。

「ファイアでもいいからさ、週に1回くらいシロガネ山に食べ物持ってきてよ」

 自分の隣のソファをポンポンと叩きながら兄ちゃんがそう話しかけてくる。
 ファイア“でも”って……まあ、いいけどさ。

「無理だよ兄ちゃん、俺まだ殿堂入りしてないもん」
「じゃあ僕のポケモン貸してあげるから、さっさとグリーン倒してリーグ入りしちゃいなよ」
「いや、それは流石に。つーか明日からジョウト行くからどっちにしろ無理」
「……誰が?」
「俺が」

 自分を指差してそう言えば、さっきまでにこにこ笑いながら話していた兄ちゃんの表情がピシャリと固まった。

「ジョジョジョジョウトに行くって! 何で!」
「や、このままグリーンに挑戦し続けててもアレだしジョウトで鍛えなおして来ようかと」
「ジョウトって遠いんだよ!? すぐに帰ってこれないんだよ!? 俺にすぐ会えないんだよ!」
「それはわかってる……てか、ちょっ、兄ちゃん痛いって! グリーン! 助けて!」

 兄ちゃんが俺の肩を掴む力がだんだんと強くなっていって、これが痛いのなんのって。この人その辺のポケモンだったら素手で倒せるって。
 給湯室からひょっこり顔を出したグリーンはのんきに「どうしたー?」なんて聞いてきたが、裏口から外に逃げようとする俺とそんな俺を逃がすまいと腰にへばりつく兄ちゃんという異様な光景に流石に吃驚していた。

「おまっ……レッド! 何やってんだよ!」
「聞けよグリーン、ファイアがジョウトに行くとか言い出して……つかお前も止めろ!」
「はあ? 何で急に……それよりお前が先に離れろって、ファイア困ってんだ――」
「くっつくなアホ!」
「不可抗力!」

 なんかコントみたいだな、とついつい客観的になってしまっていた頭をぶんぶん振って正気に戻す。
 とりあえずグリーンの犠牲(兄ちゃんを引き離そうをしたら頭突きくらった)のお陰で解放された訳だが、まだまだ説得は難しそう。

「だから、ジョウトのジム回ってきてレベルアップしたいんだって。それでシロガネ山に登れるようになれば兄ちゃんも嬉しいでしょ?」
「ファイアがジョウトに行くって言うなら食料も我慢する」
「我慢すんのかよ、ジョウト行きを我慢しろよ……」

 無駄に頑固と言うかブラコンというか、なんでこうめんどくさいかなぁ。
 兄ちゃんの後ろでおでこをさすってるグリーンに助けを求めるべく視線を送ってみれば、グリーンはうーん、とうなって。

 今度はがっしりと兄ちゃんを後ろから羽交い締めにする。

「よし! 俺がレッド抑えてる間にお前は行け!」
「はああ!? てめ、グリーン離せ! ケ、ファイアー! 僕は認めてないぞー!」
「は、はぁ……」

 なんか年長組二人だけドラマばりに白熱しているが、行けと言われている俺は未だ走り出してもいないし。どうなんだろう、これ。

「じゃ、じゃあ行ってくるから……」
「あ、そうだ。ファイア、これ持ってけよ」
「え? 今度はなに」

 くい、とグリーンが顎で示すのは入り口の横の棚にずっと放置されてたポケギアだ。あ、これって前にグリーンが使ってたやつ。

「ジョウト行くなら持ってないと色々不便だろ、俺のお古だけど持ってけよ」
「あ、ありがと」
「ずるいグリーン! 僕も欲しい!」
「お前は前に新品やったのに早々に落として壊しやがっただろ!」
「あはは……」

 痴話喧嘩へと移った二人に苦笑いをこぼしながらも、もう一度「じゃあね」と言えばジムを後にした。
 外に出てからも聞こえる二人の大きな声に、やっぱり苦笑い。なんだかんだ言ってても仲良いんだもんな、二人とも。

 ポケットにしまったポケギアをぎゅっと握りしめた。



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