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拍手返信と日々の呟き


::小話(言えない言葉3/3)



部屋に帰るなりメールを打つ。
靴も脱がず玄関先で座り込み、指先を少し迷わせながら。内容は簡単に、いつでもいいから連絡が欲しい…と。



そして呼び出し音が鳴り響いたのは、ベッドに入ってすぐの時だった。掛布団をめくり、ベッド上で正座をして通話ボタンを押す。
はじめに耳から聞こえたのは私の名前。数日ぶりのローの声に、私の鼓動は一気に早まる。


「…ご、ごめん。忙しい時に」

『いや、構わねェ。何かあったのか?』

「えっ?!な、何も…」


先ほどまでの決心はどこへやら。口から出た言葉は考えていたものとは違うもので、意地っ張り!と笑うナミの顔が頭に浮かんだ。ごくり、と唾を呑む。


「…じゃなくて、あの、ちょっと話がしたくて」

『くくっ、寂しいのか?』


からかい口調なローの声は、いつもより疲れが混じっている気がする。
それでもローはこうして連絡をくれた。それが嬉しい。


「……うん、寂しい…」


いつもと違う私の様子に、顔は見えなくてもローが驚いているのが分かった。私は膨らんで破裂しそうな胸元を手で押さえ込み、「だから…」と言葉を続ける。


「…帰って来るの、楽しみに待ってる」


寂しいという負の感情。ペンギンに言われるまで、これで一杯だった。でも違う、ローに伝えたいのはそれだけじゃないと口を開く。

すると数秒間、沈黙が続いて。


『すぐに帰る。待ってろ』

「…うん!頑張ってね」


短い会話だった。それでも変わり始める何か。
言葉が相手に伝わり、返される。その行為で不思議なくらいに気が収まり、寂しさが愛しさに切り替わっていく。

耳元に残る声に頬を緩める。
私はこの夜、久しぶりにぐっすりと眠れたのだった。







「…何か顔についてる?」


ずっと反らされない強い視線。
あれから数日経ち、ようやく顔を合わせてから数十分。ローは椅子に深くかけ、キッチンに立つ私をただ黙って見ていた。


「…もっと期待していたんだがな」

「き、期待?もしかして魚じゃ嫌だった?」


お腹をすかせていると思って用意していた夕食。これでも、いつもより豪華にしたつもりではあったが……とショックを受けていると、ローはため息を吐き、眉間に手をあてがった。


「駅前で泣くくれェに寂しがっていたと聞いたが」

「駅…って、あ、いや、泣いては…」

「あの電話の件もある。心配して帰って来たら来たで、お前が普通だったんでな。拍子抜けだ」

「あ、会えて嬉しいよ…?」


ならばどう出迎えれば良かったのだろうかと私の頭の中で不安が過る。


「寂しかったのは本当で……でもあの電話で吹っ飛んだと言うか…。心配かけたなら、ごめん…」


ローの表情は手に隠れてよく見えない。が、口元がくっと上がるのが確認できた。


「くくっ、冗談だ」

「もう!人が真剣に……ローは平気かもしれないけど、私は本当に寂しかったんだから…!」


ムッと口を閉じると、ローが席を立ちキッチンへ回って来る。そのまま長く節くれた指先でコンロのつまみを回せば、すっと消える火。グツグツと煮たっていた鍋が落ち着くのを確認し、私はローへと視線を向ける。
そのローはと言えば愉しげな表情で、すぐさま目を背けるが腰に回された手に嫌な予感しかしない。


「教えてやるよ。おれも同じだったってな」

「あっ、…お、おろして!」

「悪いな、加減してやれそうにねェ。だが言葉よりも分かりやすいだろ」

「…!」


ローも寂しいと思ってくれていたのだろうか。そんな疑問を持ってはいたが、聞くまでもなく答えは示される事になるのだった。


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2013.08.30 (Fri) 00:12
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