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::小話(言えない言葉2/3)


冷たい風に身を縮めながら帰路につく。残業帰りのこの時間、駅を出たロータリーにはちらほらとしか人がいない。
ふと目についたのはベンチに座る恋人達の姿。ただその場にいるだけか、それとも見送りなのか。身を寄せ合って話をしているその様に、重ねてしまう顔。

会いたい、声が聞きたい。

そんな想いは強くなる一方だが、どのタイミングで電話をかけたらいいのかさえ分からない私は待つばかり…。
ふっと漏れた白い息が少し滲んで見えたのは気のせいか。


「お前、今帰りか?」


立ち止まったままの私の耳に知った声が入り、振り返る。そこには少し頬を染めたシャチとペンギンがいて、僅かにアルコールの匂いもした。


「あー…お前さァ、これから暇だろ?」

「暇って訳じゃ…今帰りで、」

「じゃあ飯まだだろ?行こうぜ!」

「あ、ちょっと…!」


何のつもりか、シャチに強引に腕を引かれて近くの店に連れて行かれる。
いつもなら私の事情のひとつも聞いてくれるペンギンも口元を緩めるばかりで、私は観念して足を進めた。







「でよ、その時にそいつが」


お酒も入り饒舌なシャチからは、職場の後輩とのやりとりが面白可笑しく話される。お腹も満たされ、気分も回復した私はシャチの話にただ笑っていた。

話に区切りがついた時、タイミング良く携帯が鳴りシャチは席を立つ。その背を見て、私は未だに鳴らない自身の携帯へと視線を移した。


「…キャプテンと何かあったのか?」


鋭いペンギンからの質問に、横に首を振る。何もない。ただ、少しの間会っていないだけ…寂しいだけ。
先日のナミとの話を思いだし、私はちらりとペンギンを窺う。何か感じ取ったのか、ペンギンは「何だ」と笑った。


「男の人は、恋人に甘えられると嬉しい?」

「…どう甘えるかによるんじゃないか?」

「そ、そうだよね。甘えるというか、ちょっと違うんだけど…」

「具体的に言ってくれ」

「た、例えば…ね。忙しい時に寂しいとか言われたら、どう思うかな…」


自然と語尾が弱まっていく。
察しの良いペンギンは小さく笑った。私は手を振りながらやっぱり忘れてくれと懇願したが、私を見るペンギンの表情が優しく見えて口を閉じる。


「キャプテンに言えないか?」

「…会えば、そんな気持ちもなくなるだろうし」

「それまで我慢するのか?次はいつ会うんだ?」

「それは…」


ペンギンの言葉に私は押し黙る。日に日に増していく感情はローに会えば解消される筈だが、明日明後日すぐに会える訳ではないのは確かで。


「言葉にすれば気が収まる事もあるぞ」

「でも、」

「キャプテンに伝えたいのは、"寂しい"だけなのか?」

「…え?」

「他にもあるんじゃないのか」


穏やかな声が、私の脳内を塗り替えていく。私の中で、いつの間にか寂しいという負の感情ばかりが占めていた。けれど、私がローに伝えたいのは…。


「遅くなって悪ィ!飲み直そうぜー!」


席につくなり店員さんを呼ぶシャチに笑い、私は2人にありがとうを伝えた。


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2013.08.28 (Wed) 23:07
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