Re&365! 拍手返信と日々の呟き ::小話(言えない言葉1/3) 「寂しかったんだからね」 ふと耳に入った女性の言葉に、動かしていた手を止めた。 白磁の皿と銀のフォークがかち合い音をたて、私はハッと顔を上げる。向かい合わせに座っていたナミはそれはもう綺麗に笑っていた。 「アンタも言えばいいじゃない」 「そ、そういう訳じゃ…」 何度か来たことのあるこのバーは落ち着いた雰囲気であり、まさに隣のテーブルにいる恋人達にぴったりの空間。ナミに弁解している間も、恋人達は久しぶりらしい逢瀬に甘い空気を漂わせていた。 女性からは素直で可愛らしい言葉がポンポンと出ており、男性もまたそれに答えている。私はそんなやりとりに自然と耳を澄ませ、ナミはただ含み笑いを浮かべていた。 "寂しい" 彼女の言葉は今の私に当てはまる。ローが海外研修の為、2週間会っていない。その研修前も夜勤やら呼び出しやらで会えなかった。電話越しに声こそ聞いているものの、ひと月近くまともに顔を合わせていなかったから。 「アンタも変に意地っ張りなんだから」 「……」 「トラ男が帰ってきたら言ってみれば?」 「べ、別に…」 「ほら意地っ張り」 フォークに刺さったイチゴを口に入れ、ナミは目を細めた。 ローと付き合うようになってから、私はナミにからかわれてばかりいる気がする。でもこうした時間は楽しいし助けられてもいた。 「寂しいけど、仕方ないから」 「仕事だから?まあ理解あるのはいいけど、多少甘える方が男は喜ぶんだから」 「…甘える、ね」 むしろ甘え過ぎている様な。 ローはたまにしかないプライベートな時間をほぼ私にくれているのに、まだ寂しいと思うなんて贅沢すぎる気がして。 私は芽生えた思いを冷えたアルコールと一緒に喉の奥に流し込み、ゆっくりと息を吐いた。 . back |