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::小話(言えない言葉1/3)



「寂しかったんだからね」


ふと耳に入った女性の言葉に、動かしていた手を止めた。

白磁の皿と銀のフォークがかち合い音をたて、私はハッと顔を上げる。向かい合わせに座っていたナミはそれはもう綺麗に笑っていた。


「アンタも言えばいいじゃない」

「そ、そういう訳じゃ…」


何度か来たことのあるこのバーは落ち着いた雰囲気であり、まさに隣のテーブルにいる恋人達にぴったりの空間。ナミに弁解している間も、恋人達は久しぶりらしい逢瀬に甘い空気を漂わせていた。

女性からは素直で可愛らしい言葉がポンポンと出ており、男性もまたそれに答えている。私はそんなやりとりに自然と耳を澄ませ、ナミはただ含み笑いを浮かべていた。

"寂しい"

彼女の言葉は今の私に当てはまる。ローが海外研修の為、2週間会っていない。その研修前も夜勤やら呼び出しやらで会えなかった。電話越しに声こそ聞いているものの、ひと月近くまともに顔を合わせていなかったから。


「アンタも変に意地っ張りなんだから」

「……」

「トラ男が帰ってきたら言ってみれば?」

「べ、別に…」

「ほら意地っ張り」


フォークに刺さったイチゴを口に入れ、ナミは目を細めた。
ローと付き合うようになってから、私はナミにからかわれてばかりいる気がする。でもこうした時間は楽しいし助けられてもいた。


「寂しいけど、仕方ないから」

「仕事だから?まあ理解あるのはいいけど、多少甘える方が男は喜ぶんだから」

「…甘える、ね」


むしろ甘え過ぎている様な。
ローはたまにしかないプライベートな時間をほぼ私にくれているのに、まだ寂しいと思うなんて贅沢すぎる気がして。


私は芽生えた思いを冷えたアルコールと一緒に喉の奥に流し込み、ゆっくりと息を吐いた。


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2013.08.27 (Tue) 13:16
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