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::小話(シャチと放課後)


夕日が教室を赤く染め上げる。
オレ達の他には誰もいない、静かな放課後。
自分のものとは違う、白い手首を掴んだ。


「…いいのか」

「う、うん…」

「じゃあ、いれるぞ」

「あっ!ま、待って…!い、い、痛いよね?」

「まあな…それは仕方ねェだろ」

「わ、私、やっぱり…」

「あのな、お前がこの状況を作ったんだからな。最後までやろうぜ」


オレがそう言うと、触れ合っている指先が震えた。
何かを決めたオレを見る視線、心なしか潤んでいて今にも泣きそうだ。


「う…シャチ、お、お願い。ローが来る前に」

「お前、やっぱりキャプテンの方が……まあ、やるぞ」


オレが動けば、震える吐息。


「…やだシャチ、い…痛い!」


堪える様に目を細め、手が揺れた。
力で押さえつければ折れそうな手首にやっぱ女だなと実感する。普段はピーピー煩いが、ふと垣間見えたコイツの可愛い部分にオレは小さく笑い、また手を動かしていく。


「…シャチ、は、早く…抜いて」

「ちょっと待て、すぐ終わ…」

「おい、何してる」


ぐすりと鼻をすする音と同時に教室のドアが開く。
見れば、青筋立てたキャプテンが冷たい笑いを浮かべてオレ達(正しくはオレ)を見ていた。
後ろには失笑するペンギンもいる。


対するオレ達はと言えば、息がかかりそうな程の距離で、手を取り合っている。
何か勘違いされても仕方ないのかもしれない。
ああ、終わったと背筋にひと筋の汗が流れた。


「何をしてると聞いたんだ」


近づいてくる足音がやけに大きく聞こえる。


「ち、違うんです!コイツの手のひらにトゲが!」

「……」


まだ鼻をすするコイツの手をキャプテンへと向けた。

事の発端はこれだ。
手のひらの付け根あたり、盛り上がった箇所に茶色いトゲが皮膚の中に入りこんでいる。
「自分では取れないから取って」と針を片手に頼まれ、冒頭に至る。


「おれに言えばいいだろう」

「…ローは、その、結構容赦ないし…い、痛いの!」

「誰がしても痛い。あと針なんて使うな、細菌が入る」

「…う、うん」

「行くぞ。取ってやる」


別れの言葉とメデューサ級の睨みを残し、2人は教室を去って行く。


「なあ、オレ悪くないよな!?」

「ああ…まあ、色々と重なっただけだ」


他人事の様に笑うペンギンを睨み、オレは頭を掻いた。


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2013.06.01 (Sat) 17:19
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