Re&365! 拍手返信と日々の呟き ::小話(カトレア3/3) 研修との名目で再会したローは、何かが変わっていた。 圧倒的な存在感は変わらないが、刺すような鋭さがない。知り合って数年見てきた彼の顔ではない、私の知る彼ではない。 まるで穏やかな波、そんな落ち着きを備えていた。 そして、たった数日で私は知る。 彼がなぜ私の前で眠らなかったのか。彼がどんなに不器用な男性であったのか。彼の、強さの理由も。 … 少し開いた窓からは肌寒い風が入り込み、それに混じり聞こえてくる賑やかな声。つられるように窓の外を見れば、人の中心にローと彼女がいる。 離れすぎていて、ひとりひとりの表情は窺えない。けれど声を聞けばおのずと分かる。皆、心から笑っていると。 そう…いつも一人でいた彼は、独りではなかった。だから強いのだ。 ずっと昔から、私と出会う前から、彼の根底には彼女たちの存在があった。 「うらやましい」 私は笑いながら、彼女に伝えた素直な気持ちを言葉にする。 そして、ローに言われた事を思い出した。 "妥協するな。そばにいる人間で人生が変わることもある。…幸せは自分で掴むしかねェんだ" 彼は分かっていたのだろう。 本当はローと結婚なんて考えていなかった。でも彼に頼れば、望まない結婚から逃げられるのではないか…と、ただすがっていた事。 家柄を理由にして、私自身が人生に対して妥協している事も。 しっかりと前を見据えていない私の足元は、根をはっているようで実に脆いものだった。それを隠して強くありたいと虚勢を張り続けるうちに誰にも本心を出せなくなった、独りの私。 けれど、それでは笑えない。強くなれない。そう、教えてもらったから。 「さようなら」 彼と彼女のように、互いに求めあって支えられる様な存在をつくりたい。 私自身の手で、見つけたい。 帰国して両親にそう伝えよう。私の言葉で、私の口から。 去って行くいくつもの背を見送り、私は澄んだ空を仰いだ。 . back |