Re&365! 拍手返信と日々の呟き ::小話(カトレア1/3) 彼との出会いは、名門と謳われる医学校に在籍してすぐの事だった。 広い構内を見て回り、図書館へとたどり着いた時。 「ほら、彼がトラファルガー・ローよ」 抑えた声で示される。 友人が指差す先には、私が思い描いていた人物像とは真逆の彼がいた。 第一印象は、"意外"という他ない。 彼は図書館のソファーに深く腰を下ろし、長い足をもてあます様に組んでいた。 骨ばった大きな手の中には医学書があり、文字を追う目は伏せ気味で確認できないが、眼下の隈はとても印象的。 落ち着いたこの空間に馴染んでいるのに、彼は圧倒的な存在感を示していた。 「あのトラファルガー医師の息子さんですって。お母様も研究者で…」 「へえ、じゃあ優秀なのね」 友人達の会話に目を細め、その話から逃げる様に止めていた足を進める。 そう、そんな会話は私にもよく向けられていた。 父と母、親戚に至るまで何かしら肩書きを持つ一族に生まれてきた私は、良かれ悪かれ世間から注目を浴びても仕方ないと自覚している。 現に、今日とてどれだけの視線を集めていたか。好意、憧れ、羨望、嫉妬、向けられる視線は様々。 行く先々で根も葉もない噂をされる事もあった。それも仕方のない事だと、それなりに理解している。 「彼、かなり派手らしいわよ」 「なになに、何の話?」 「女性関係よ!あれだけ顔立ちも良くて、条件も良ければね…」 理解はしていても、やはり噂話は苦手であった。例えその話の中心が私でなくとも、だ。 続けられる友人達の会話を聞き流していれば、ふいに矛先が私へと向いた。 「カトレアも気を付けてよ!」 「あら…何を?」 「彼よ、手も早いって話だから」 そう忠告する友人は真剣な様子で、私は口元を緩める。 噂好きなところを除けば、本当に気の合う友人。私は笑いながら言葉を返した。 ▼ 私が彼と接触したのは、それから半年ほど経ってから。 その間、何となくではあるが彼の事が分かり始めていた。 精悍な顔立ちやスタイルに加え、医学以外のあらゆる知識も卓越しており技量も良い。 大人しく見えて、時に向けられる敵意に好戦的な部分を見せつつ事を収めるのも上手であった。 彼は、器用な人。 でも何故か人を寄せ付けない雰囲気を放ち、上辺だけの付き合いも決してしない。 だからか他の人のように、興味本位で私に近付きもしない。それ以前に、おそらく彼の視界にすら入っていないだろう。 そんな彼と私、合わさる点はどこにもない。 そう、思っていたのに。 交わったきっかけは、ほんの些細なことだった。 . back |