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::小話(シャチの見舞い)


ベッドの横には椅子、その上には分厚い本がおかれている。
これはシャチと入れ替わりに部屋を出て行ったローが使っていた椅子。彼の場所であったそこを見ながらシャチは口元を緩ませ、次に目の前で横たわる友人を見る。
いつもより力のない笑顔、だがその顔色は手厚い看病の為か悪くはない。


「思ったより元気そうで良かったぜ」


突然の発熱から寝込んだと聞き、3日も学校を休んでいた少女。その間、幼なじみであるローの様子はどこかおかしかった。心ここにあらず、と表すべきか。


「心配してくれてありがとう。明日からは学校に行けると思う」

「あんま無理すんなよ」

「熱も引いて体調もいいし…寝っぱなしで暇なのよね」

「でもキャプテンがついてたんだろ?」

「え…っ!」


何気ないシャチの言葉に、少女の表情が少し固まる。次にみるみる赤く色付いていく頬と耳元。面白いくらいに分かる、その反応にシャチの頭には疑問符が浮かんだ。
2人がいつも一緒にいるのは記憶に刷り込まれているし、本人たちもごく自然に同じ空間を過ごしている。
ならば何故、こうも反応を見せるのか…。

がちゃり、

止まった時を動かすように、部屋のドアが開いた。
入って来たのは盆を手にしたローであり、それを見た少女は肩を跳ねて反応する。
明らかに動揺していた。

そんな様子を気にする事もなく、ローは粥をのせた盆をベッドサイドに置き、自身も腰を下ろす。その瞬間、少女の視線はローと粥、そしてちらりとシャチに向く。


「えっと…食べなきゃダメ?」

「当たり前だ」

「そうだぞ!ちゃんと食って寝ねェと、明日来れなくなるぞ!」

「……う、ん」


ローの言葉にシャチも加わり、少女は眉を下げて渋々と了承する。
食事も摂れないほど弱っている訳ではない、では単にお腹が減っていないのか。でも栄養も必要だからなァ…とシャチは頭を掻きながら考えていたが、目の前で起こり始めた光景に手を止めた。


「……」


粥がのるレンゲを持つ手は、明らかにローのもの。
視線を下げ、控えめに口をあけた少女に「もっと開けろ」と指示を出しながら食べさせていく。


「あの、ロー…。自分で食べ…」

「そう言って食わなかったのは誰だ」

「いや、今はちゃんと…」

「話してねェで食え」


この言葉にできない雰囲気を感じているのは、少女とシャチのみ。ロー本人は至って真剣なのだから、何も言えない。

(…コイツの動揺はこのせいか)

真面目な表情で手を進めるローと、困り顔で口を開ける幼なじみの少女、なぜこの場に居合わせたのかと視線を反らし続けるシャチ。


「…全部食べなきゃダメ?」

「いや、食える分だけでいい」


ただならぬ空気が流れる室内。
シャチは繰り返される行為にひどく動揺しながら、会話をただ聞いていた。

この出来事を、見舞いには来れなかったが自分と同じく少女を心配していた親友に話していいものか。
しばらくして少女宅を出たシャチは頭を抱えたのだった。






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拍手にてローさんに「あーん」してみたいと見た時に妄想が広がりました。勝手に改変してしまいまして、される立場になりましたが……すみません!
いいネタをありがとうございました。

ローさんは真面目な天然さんだといい…な。

2013.06.30 (Sun) 10:23
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