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::小話(もち2/2)


鍵をまわし、暗い部屋に明かりを灯す。時計の針は19時を過ぎたところ。ナミ屋の言葉通りに残業なのだろう、室内にあいつの姿はない。帰宅が遅いのは普通にある事で、時間的にも気にする事でもない。


だがナミ屋の引っ掛かった言い方と、目の前にあるものに楽観視できなくなってしまった。


テーブルの中央にある、リングスタンドに置かれたもの。それはあいつの指にはめられていた指輪で、本格的に同棲が始まった日におれが贈った指輪だった。
料理をする際に一時的に外しているのを見たことはある。だがそれ以外では常に身に付けていたものが、ここに残されている意味は……と思考を巡らせてみる。


最後に連絡をとったのは一昨日だった。ほんの数分だが電話越しの声や会話につい口元を緩ませたもので、あいつの様子もおかしくなかった。

しかし今ここに指輪があるという事は、今朝からつけていないという事。そしてリングスタンドに置かれているとなれば、抜け落ちて気付いていない訳ではなく、意図的に外されている事を示す。
そして、ナミ屋の言葉。

(……何だ?あいつが指輪を残して出て行ったとでも?)

しばらく突っ立つしか出来ず、どれくらい時間が経ったのか。おれのものよりも細く小さい指輪をただ眺めていると、突然玄関が開かれた。


「あ、ロー……おかえり!すぐご飯にするからね?」


帰宅したこいつは、いつもと変わりない様子で笑みを浮かべている。軽い足音をたててキッチンに入り、買い物帰りなのか荷物を片す。それを終えてシンク前に立てば、カウンター越しにおれと顔を合わせて。


「…ロー?」


不思議そうに首を傾げ、何をしてるんだとでも言いたげな視線。それはこちらも同じで、蛇口を回そうとしていた左手を取り、空に向ける。


「ロー、どうし…」

「指輪」

「え?」

「……なぜ外した?」


バカバカしい話だ。たかが指輪を付けている付けていないでこんなにも感情を左右されるとは思いもしなかった。

一瞬静まり返った室内。
次に、小さく笑い出す声が響く。


「…ふふ、さっきナミを送ってあげたんでしょ?その時聞かなかった?」

「何をだ」

「今日うちの社内イベントでお餅つきをしてね。ほら、指輪をなくすと嫌だから……」

「……」

「つきたてのお餅があるから、後で食べようね!美味しい小豆も買ってきたんだ。ナミに教えてもらったの!」


得意気に笑うこいつの背後に、ナミ屋の操り糸が見えた気がして。
それを祓う様に手で宙を払い、おれは指輪を元の場所に収めた。


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2015.02.08 (Sun) 00:37
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