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::小話(もち1/2)


冬の夕刻、暗くなった車道を走る。
時折信号につかまりながら歩道を行き交う人波を窺い、その姿を探してしまう。

(…いるはずもねェのに)

あいつの会社や帰宅ルートとは違う道だ。だが数日ぶりの帰宅ともあって、おれの気は逸っているらしい。自然とハンドルを握る指先に力がこもっているのを自覚する。

そんな中、信号待ちの列に並べば助手席のガラスが音をたてた。窓越しにオレンジの髪が映り、指で何かを示す。手元を操作して窓を開ければ、冷たい外気と見知った声が車内に入り込む。


「ちょうど良かったわ、駅まで乗せてくれない?」

「……ひとりか?」

「あの子なら、私が帰る時もまだ会社にいたわよ」

「なら断る。駅まで1キロもねェだろう、歩け」

「荷物が重いのよ!ほら、信号も変わるから」


そう急かされ、仕方なくドアロックを開ける。寒かったと言いながら後部座席に乗り込んできたナミ屋の手には、重いと表した荷物。白い塊としか表しようがない物体に眉をひそめる。


「変なモンじゃねェだろうな」

「ただのお餅よ。わけてくれるって言うから、少しだけもらったの」

「へェ……少し、か」


塊は成猫一匹分くらいの大きさか。餅だとすれば、それなりの重量があって当然。持ち帰るにしても適度な量があるだろうと思ったが、喉元で留める。


「しかしトラ男とこんな所で会うなんてね」

「それはこっちの台詞だ。お前も帰宅ルートじゃねェだろ」

「私はぜんざいでも作ろうと思ってね。そこの店に小豆を買いに行ってたワケ」

「小豆くらいどこでも買えるだろ」

「どうせ食べるなら美味しい小豆がいいじゃない」

「……」

「何よ」

「別に。人それぞれ価値観が違うもんだと再認識しただけだ」


わざわざ遠回りまでして買いにでる価値はあるのか。あまり理解できない思考だ。アクセルを踏みながら鼻で笑えば、ナミ屋が不機嫌そうに息を吐きだす。


「つくづく冷めた男ねえ……あ、」


途切れた会話を不審に思いバックミラー越しにナミ屋を窺えば、さも愉しげな様子で口元を緩めていた。


「……何だ」

「別に?ところで、あんたは今から帰るの?」

「あァ」

「そう。あ、その先で降ろして」


言われた通りに駅前で降ろせば、ドアを閉めようとしたナミ屋が目を細めて笑う。


「あの子、早く帰ってきたらいいわねぇ」


普通の様で、どこか含みのある言葉に思わず眉を潜める。だがその一言を残してドアは閉められ、ナミ屋は早々と駅内へと姿を消した。


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2015.02.08 (Sun) 00:30
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