Re&365! 拍手返信と日々の呟き ::小話(残り時間) 休日の穏やかな昼下がり。 馴染みのカフェで私と向かい合うのはナミで、顔を合わせた瞬間から何かありそうだなと感じていたが。 やたらと笑顔のナミから始まった会話はお互いの近況報告であって、勘繰る様なものではない。仕事のこと、恋愛のこと、お互いの家族のこと…と話が進み、久しぶりに聞く名前に私の警戒はすっかり薄れていた。 「…ノジコさんの?」 「そうなのよ。まあ、タウン誌の小さい広告なんだけどね」 ふたつのグラスと甘味がのせられていたテーブルに、ナミが何かを取り出して置く。それは可愛らしい女の子が表紙の一冊の雑誌だった。 若年層をターゲットにしたそれは地元のタウン誌で、私も何度か目にしたことがある。聞けば、今度その雑誌にノジコさんが広告を出すらしい。 「思ったより大変なのよ。こっちで原稿を持ち込んで掲載してもらう形なんだけど色々と訳ありで。……良かったら手伝ってくれない?」 ノジコさんが夢だった雑貨屋を営んでから数ヵ月。扱われている小物が素敵であるのはお墨付き、また昔からお世話になっていた恩もある。応援したい気持ちは十分にあった。 「もちろん!何か手伝えるなら遠慮なく言って?」 「そう?助かるわ。持つべきものは頼りになる親友よね!」 そう、美しく笑ったナミに。数分前に感じた勘を何故生かさなかったのか、後から後悔する私がいた。 ▼ 「ああ、だめよ!もうちょっと近付いて!」 ノジコさんの激が飛ぶ。 私はびくりと肩を震わせ、元凶でもあるナミへと恨む様な眼差しを向けるも、鼻で笑われるだけだった。 「もっと寄り添って、視線はあっちよ。ほらほら、今日はモデルなんだから!」 カメラを構えるノジコさん。隣でニヤニヤと笑むナミ。この姉妹にはどんな状況でも勝てそうもないと無理矢理に笑顔を作って答える。 指示通りにしているだけ、これはあくまでも手伝いなのだ。だから照れる必要はない。そう何度も自身に言い聞かせながら、私は相手役である……ローに寄り添った。 「あの…いいの?ローって、こういうの好きじゃないよね…」 「あァ嫌いだ」 「だ、大丈夫なの?別に無理しなくても…」 「……顔は伏せるんだろ」 「そうみたいだけど、でも…」 「今日だけだ。いいか、お前もこういった事を気安く引き受けるな」 囁く様な声量の、低い声が耳元で響く。おそらく良い気分ではないであろう。呆れた様な、戸惑う様なため息が私の頬を掠める。 「背中に腕を回して、恋人にするみたいにね?」 だがローもまた、ノジコさんの指示通りに動いた。 手伝って、と。 数日前に交わしたナミとの約束を果たすべくノジコさんの店に来てみれば、そこには何故かローがいた。 疑問符を浮かべる間も無くトントン拍子に話が進み、ようやく理解できたのは私達は広告のモデルに抜擢されたという事だった。 ノジコさんお手製のアクセサリーを付けた私に、ローが愛しそうに触れるという図。顔は映らない。けれど緊張はするし、相手がローとなれば平静でいられるはずもない。 私は早鐘を打つ鼓動を落ち着かせるのに精一杯。ローに気付かれてないかなと心配しながらも、幸福感が込み上げて……少しだけ、未来への希望を抱いたりもして。 (……好き、だなぁ) 改めて実感しつつ視線を動かせば、ローの肩越しにナミを見つけた。すると含み笑いが返され、次に動いた口元に私の熱はまた上がる。 "お似合いよ" 静かな空間で、シャッターをきる音だけが響く。 あと数秒か、数分か。分からないけれど。 少しだけこの時間に甘えてみようかと、ローの肩に頬を寄せた。 . back |