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がたんごとん。

規則的な振動に身を任せ、私は流れ去る景色を見る。

高い建物が並ぶ街、それを過ぎれば緑もちらほらと混じる住宅街へ。そして商業地の街並みへと変わる。大きな夕日を背後に、空は暖炉のような暖かい色で染まっていた。


それらは乗車中にいつも見る、いわば慣れた景色。だが私はそれらを眺めるのが好きだった。
電車の大きな窓はさながら動くキャンパスだと思う。眺める時間、状況によってそれは様々に変化するから。


 …
 

停車駅に着き、電車が停まる。
降りる人が前方を横切ったのを区切りに、私は窓から視線をはずして車内を一瞥した。

今日はいつもより早く帰宅できた。だからか車内の人は多くなく、ちらほらと空席がある。駅から乗りこんで来る人も少なかった。


(…あ、)


ふと、さ迷わせていた視線が一点に定まる。それは連結部分を挟んだひとつ前の車両で。
私だけじゃない。
他にも複数の視線を集めたのは、駅から乗りこんできたローだった。

格好こそはラフなものだが、その手には仕事用に使っている大きな鞄。珍しい姿かもしれない。いつもは車で移動するのに、電車を使う時もあるのだと再認識する。

ローは空席の目立つ一画に座り、腕と足を組んだ。そして遠くを見る様に顔を上げる。よくある動作なのに、見惚れる様に視線が釘付けになった。
それもまた、私だけではなく。そばにいた女子学生達がお互いの肘をつつきあったりと、ローのいる車内が色めき立ったのが分かる。


(……)


ローの視線は動かない。窓の外、遠くを見ている様にも見えるし、何か考えている様に思えた。仕事のことかな、それとも別に悩みが?
私は声をかけようかと動いた体を戻し、ぴくりとも動かないローを再度見る。盗み見している様で悪い気もしたが、こうして一方的に眺めるという機会はあまりないから。
……少しだけ、見ていたい。



しばらくしても、ローの体勢は変わらなかった。夕日を受けて眩しいのか、時折目が細められる。それでも視線は変わらずに遠くにあった。
陰影のついた横顔は男性なのに艶があり、私の胸はときめく。今まではなかった感覚。でも自覚してしまったから、素直に受け止めるしかない。


ローが好き、と気付いて。


その姿に、行動に、一喜一憂する私がいる。幼なじみとして、そばにいたいと願うだけでは足りなくなった。
ローへの無言の要求も増えていく。告白する勇気もないのに、他の女性を見ないで欲しいと願う。そばにいたい、何かを共有したいと願ってしまう。

どこまでも欲張りな私。
ローが知ったら疎ましく思われてしまうだろう。そんな自分自身に呆れていれば、微動だにしなかったローの口元がふっと緩んだ気がした。

一体、何をそんなに眺めているのか。何を考えているのだろうか。知りたくて、目で追うもその心までは分かるはずもなく。

ただ、穏やかな笑みに私までつられてしまい、熱があがった頬に手を添えた。


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2014.08.11 (Mon) 09:01
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