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拍手返信と日々の呟き


::小話(笑顔2/2)


「…何でかな」


昨日の喜びはどこへやら。
散歩がてらに公園まで来たまではいいが、私はベンチで項垂れる。

足元には昨日買ったパンプス。気分は上々だった。試着だってしたし、デザイン自体も気に入っている。
でもいざ歩いてみると、慣れないヒールで歩きづらいどころか、かかとが擦れて豆ができてしまった……地味に痛い。


「こんな筈じゃなかったのになぁ」


昼下がりの公園には私の他は誰もいない。パンプスを半分脱ぎ、つま先でぷらぷらと揺らす。行儀悪いのは分かってはいたが、心の中で悪態つきながら空を見上げた。


ちょっと背伸びしたかった。素敵な靴をはいて、お姉さんみたいに颯爽と歩いてみたかった。
それすら叶わないなんて。


ぽかーん、と浮かぶ大きな雲に向かってため息を吐き出せば、「何してんだ」と聞き慣れた声が背後から飛んでくる。


「あれ、どうしたの?勉強してたんじゃ」

「散歩」

「…そう。私も散歩」

「へェ、その靴でか?」


ローは口端を上げながら、私が座るベンチ前に片膝をつく。
その不自然な対面に目を丸くすれば、ローは持っていた紙袋から見慣れたサンダルを取り出して地面へと置いた。


「…ありがと」


不格好に歩く姿を、部屋から見ていたのだろうか。それともお母さんが呆れた様子で見送っていたから、面倒みてと押し付けられたのかな。
恥ずかしさから視線を落としていたら、隣に腰をおろしたローがパンプスを拾い上げて眺める。


「歩きにくそうな靴だな」

「でも綺麗でしょ。私には早すぎたみたいだけど…」

「まァ、朝からジタバタ走り回るお前には向かねェだろうな」

「……でも、はいてみたかったの!」


むっと唇を尖らせながら、昨日感じた事をつらつらと話せば、ローは静かに笑う。
その手で再び地面に置かれたパンプスを苦々しく見ていれば、「おい」と隣からの声。顔を合わせれば、ローは顎である方向を見るように示した。


それは公園の外、いたのは携帯を片手に歩く女性だった。
綺麗に形作られた髪、歩く度に揺れるブラウス、鮮やかな色のスカート、足元にはおしゃれなサンダル。一見、魅力的な印象だったがそう思えなかったのは、女性が眉をしかめて怒っている様子だったからか。


"あら、久しぶりね!"


ふと思い出した、お姉さんの明るい声。輝く様な笑顔。きらびやかな装いが、その表情をより際立てていて。


「そういえば、いつも楽しそうに笑ってるんだよね」


慣れない靴でよたよた歩くよりも、背伸びして着飾るよりも。
私は私なりの方法で、憧れに近付く道がありそうだ。


「…散歩の続き、しようかな。商店街のクレープ屋さんまで」


慣れたサンダルをはいて立ち上がれば、背後からはまた笑い声が上がった。



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2014.06.10 (Tue) 23:19
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