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::小話(ほたる、その後)



「お前さァ、あんまキャプテンを煽んなよ」

「あら何の話?」

「昨日だって言ってたろ……ほら、あいつら」


あくまでも小声で。隣の席に座るシャチからの抗議に笑い返し、私はふたつ前に座る親友とクラスメイトを窺った。
今日もまた、彼女たちは他愛ない話で盛り上がっている。


…最近仲が良いわね、と。


そう口にしたのは、ただのからかいだ。親友にではなく、遠目に見ていたトラ男へ。

探りを入れるまでもない、親友はまだ恋だの愛だのと考えて異性と接してないから。本当に、たまたま席替えで隣になったクラスメイトと(こちらに気はありそうだが…)話しているだけで。
それでもトラ男の方は気になってしまうのだから、この幼なじみ達の事情は面白いのだ。



そんな過程があっての昨日の下校時とは違い、今朝のトラ男の表情はやけに冴えていた。その理由も分かる。


「バカよね」

「…ん?」

「何も心配しなくていいってのに」


昨日、親友は言ったのだ。
それはまさに隣席の彼からの情報で。


"ナミは知ってた?あの河川敷でさ…蛍が見れるんだって!"


続く、言葉。


"…ローと見に行ってみようかな。最近見ないねって話してたんだ"


親友の中で、トラ男の存在は大きい。恋ではない、でもいつも隣にいる幼なじみ。単純な関係ではあるが、第三者がそう易々と入り込めやしない絆がある。


そんな幼なじみ達を視界におさめれば、片方はまだ談笑中、片方は自席で読書中。
じれったい、早く何か変わればいいのに…と無言の野次を送っていると、親友が急に席を立った。


「それでね、…あっ、ごめん。目に何か入ったみたい」

「おれが見てやろうか?」

「え?あ、大丈夫大丈夫!ナミ、鏡持ってる?」

「持ってるわよ。大丈夫?」


片目を手で覆いながら、私へと寄ってくる親友。鏡を差し出したまではいいが、それは親友が受け取ることはなかった。
……まあ、来るとは思っていたけど。


「見せてみろ」


予想通り、割って入ってきたのはトラ男で。
そしてこの瞬間に分かる。
クラスメイトに言われた時は大丈夫だと離れたのに、親友はトラ男をごく自然に受け入れ、されるがまま顔や目をいじられている。
まさに無意識下での線引きだろう。後ろで眺めていた彼もまた、理解したのか肩を落としていた。


「あー…確かにもう心配いらねェな」


確信めいたシャチの声。
それはまた、目を瞑ったままの親友の前で……クラスメイトへと悪そうに笑む、トラ男の表情を見たからだった。


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2014.05.29 (Thu) 20:43
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