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::小話(ほたる)



「最近仲良いじゃない。あいつ、あんたに気があるんじゃない?」

「え?いやいや、隣だから話す機会が増えただけだよ」

「ふーん?」

「もう!何もないってばー」


終礼の後、席を立つと聞こえてきたのはナミ屋の声。
からかいを含むそれは幼なじみにだけでなく、おれに対しても向けられていると確信したのは一瞬視線が合ったからだ。

ナミ屋の言葉通り、先週の席替えをしてからあいつと隣の男が話しているのを見る機会が増えた。朝礼前、休憩時間、昼休み、そして放課後。僅かな時間ではあるが、言葉を交わす姿を見て穏やかでいられないのも確かだった。


「あ、そうだ!ナミは知ってた?あの河川敷でさ…」

「え、本当?それは知らなかったわ」

「うん、さっきの休憩時間に聞いたんだ」


楽しげに続く会話にも少し苛立つものの、表面には出さない様に教室を出る。すると「じゃあね、ナミ!」と別れを惜しむ声とともについてくる幼なじみ。何も知りはしないこいつは、ナミ屋とはまた違う話題をおれに振りながら足を進める。

こいつは否定していたが、端から見れば分かる事。隣の席の男は、こいつに好意を持っている。だが口にするには至っていない。そんなところだ。

校舎を出れば、おれの心境と似た不穏な空模様。降るか曇りのままか。どちらにせよ傘を持たない帰路には不安がつく。


「降るかなぁ。夜は晴れるみたいだけど」

「どうだろな」

「あ、ローは夜は暇?」

「…あァ」

「じゃあ家にいるよね……いてね?約束!」


大抵はいるじゃねェか…と言いかけて口を閉じる。能天気に笑う幼なじみと、苛立ちの原因でもあるクラスメイトが並ぶ姿がふと過り、半ば投げやりな気になっていたからだ。







辺りが暗くなり、いつの間にか顔を出していた月が眩しく見える時刻。
薄着の幼なじみが迎えに立ち、連れ出されたのは河川敷だった。

外灯が少なく、人気のない静かな道。伸びた草が風にさらされ、昼間は聞こえない水流の音を耳に入れながらただ歩く。


「…おい、」

「しーっ。ちょっと待ってて…」


月に照らされたふたつの影が止まる。
すると数分後、風で踊るように揺れる草の合間に光を見つけた。それはぽつぽつと、次第に数を増やしながら呼吸をするように輝き始める。


「…蛍か」

「昼間にね、ここに蛍がいるって聞いて……ローと見たいなーって思ったんだ」


そう、何気なく吐かれた言葉に。


「ほら、去年だっけ?ローがさ、最近蛍見なくなったなって話してたじゃない?」


何気ない言葉を拾われていた事に、静かに驚いて。


「前も一緒に見た事あったよね。あれいつだっけ…」


舞い踊る光を鑑賞しつつ、肩の力がゆっくりと抜けていくのを感じる。
自分自身に呆れる。一体昼間の苛立ちはどこへ行ってしまったのか。


「きれいだね!」


こいつもこいつだ。そう濁りのない笑顔を向けられてしまえば、おれはつられるしかねェってのに。



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2014.05.29 (Thu) 00:51
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