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::小話(春の星座)


それは星が綺麗な夜だった。


桜のつぼみが芽吹く時期。昼間は暖かく、でもまだ夜は肌寒い。薄着のままだった私は部屋で上着を出し、階段をかけ降りてそのまま玄関を出た。
目指すは隣家、目的は朝食のサンドイッチを届ける為。


「今日帰国予定だったんだけどねぇ…」


頭の中で蘇るのは母の声だ。外国で仕事をしているローのおばさんが帰国する筈だった今晩、急な予定が入り帰れなくなった。だから、ローの朝食を届けに来たのだ。


暗い隣家は中に入っても明かりが点されていない。リビングの明かりをつけ、私はテーブルに朝食を置く。
一階に人の気配はない。ならばローは自室だろうか?そう思って足を進めるも、部屋にもいなかった。
静かな室内に物音はない。だがどこからか風の流れを感じ、私は導かれる様に進む。


そこは、屋根裏部屋。
天井が屋根の形のまま斜めになっており大きな天窓が付けられている。普段は使われていない何もない部屋、だが寝そべって星が見られる部屋だ。
半開きのドアからは月明かりが細く射し込み、風の流れもある。


「…ロー、いる?」


分かってはいるが、呼び掛けてみる。これは合図だ。その昔、私はここへの入室を認められない事があったから。

理由は、何かな。
虫の居所が悪かった、1人になりたかった、ローのお気に入りの場所だった。そんな理由もあるだろう。
だが、ローは今日みたいな……予定していたおじさんやおばさんの帰国が延びた時にこの部屋にいる事が多かった。


「…あァ」


先ほどの問いに答えたローの言葉は、何ともない穏やかな声色。私は半開きだったドアを開け、中へと入る。 何もない空間に寝そべるローは、天窓からの景色を眺めていた。


「どうした?」

「サンドイッチ、置いてあるから明日の朝に食べてね」

「あァ、分かった」


ぴくりとも動かない視線。ローは何を考えてるんだろう、立ったままぼんやり考えているとローが静かに笑う。


「…見るか?」


ようやく交わった視線は、私の想像とは違って何だか優しく見えた。


「…いいの?じゃあ、一人占めのところ、失礼します」

「せっかくだ。星座のひとつでも覚えるんだな」

「ひとつくらいなら分かるわよ!ほら、あれが…」


開け放った天窓からの微風は少し肌寒い。でも、窓枠越しに見える満点の星空はとても綺麗だった。



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2014.04.11 (Fri) 00:47
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