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::小話(朝焼け)


「ローは朝焼けって見たことある?」


私とローの間に白い息が舞う。満点の星が輝く寒空の下、窓越しに問いかけるとローは首を縦に振る。「綺麗?」とさらに訊ねると、「別に」と素っ気ない答えが返ってきた。
ローは単にそういった事に興味がないだけ。分かってはいるが、期待はずれの答えに私はむくれてしまう。それに気付いてか、ローは小さく笑って手元の本に向けていた視線を私へと移した。


「確かめてみればいいだろう。明朝は条件もいい」

「そうなんだ。じゃあ頑張って早く起きてみようかな」

「起きれんのか?」

「うっ…でも見てみたいし」


朝焼けを見たい理由。夕食後に見ていたテレビで話題になっていて興味をもった、そんな単純な理由だ。


「…頑張ってみる。じゃあ、おやすみ!」


朝日が出る前、赤く染まるという東の空。それはどんな色だろうかと想像しながら私は窓とカーテンを閉めた。







視界は暗い。
時刻は5時を回ったところだった。窓につく霜を眺める。外はさぞかし寒いのだろう。手早く着替えて外に出ると、辺りはまだ薄暗かった。外灯だけが点き、人影もない住宅街は寂莫としている。
防寒具を着込んでもまだ寒い。身を縮めながら変化のない空を眺めていると、隣家からドアの開く音。そして、見慣れた姿が出てくる。


「お、おはよう?」

「…冷えるな」


ローの眼は僅かに閉じ気味だ。寒いのか、それとも気だるいのか、いつもより背も少し曲がっている。
それでもざくざくと霜柱を踏み進み、家の前の道路に立つ私の隣に並んだ。ローはおそらく、私の気まぐれに付き合ってくれるつもりなのだろう。

白い息が視界に広がる。静かな時間、遠くの家の音が耳に入ってくる。こんな寒い朝に2人で空を仰いだまま。端から見たら私達は可笑しいかな…でもきっと誰も見ていないだろう。そんな事を思っていると、見上げた姿勢のままローが呟く。


「歩くか」

「え?」

「あの公園なら遮る建物もない。東の空がよく見えるだろ」


確かに住宅街のここでは眺望は良くはないが。


「…いいの?そこまで付き合ってもらって」

「今さらだろ」

「…そうだけど。ロー、あんまり興味なさそうだったから」


辺りに響く2人の足音。他愛ない話をしながら歩けば、いつの間にか寒さを感じなくなっている。公園はもうすぐだ。


「あっ!…ロー、見て!!」


ふと、今までにない光を視界に捉えた私はローと交えていた視線を空へと移す。すると濃紺の空に赤い光が射し込み、その狭間ではオレンジ色が輝き始めていた。言い表せない色彩、そのバランス。一分一秒と過ぎるたび、空が変化を見せるのをただ眺める。

何の邪魔もない開けたこの場所だからこそ、四方八方の変化も分かる。おそらく建物が並ぶ自宅の前にいては、こんな風には見られなかっただろう。


「ロー、ありがと。1人だったらここまで来てなかったよ」


綺麗だね、と見逃す事がないように空を仰ぐ。私と同じく見上げたままのローからは何の返事もないが、少しは感動しているのだろうか。その口元は優しく笑んでいた。


「空に興味はねェが……お前の喜ぶ顔が見れんなら、いくらでも付き合ってやるよ」


ローの吐息とともに囁かれたそんな言葉に、空に釘付けな私は気づく事もなかった。

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2014.01.26 (Sun) 23:16
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