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::小話(誰のケーキ?)


遠目に見えた2人の姿は表情こそ見えないものの、周囲を指差しては顔を見せ合ったりとその雰囲気は甘く穏やかなもので。

まだ学生だった頃、そうなれば良いと願った事がいま現実となっている。それは嬉しい事で、その気持ちに偽りはない。

…が、今となっては傍観する面白味がなくつまらなくも思う。


「おい、お前それキャプテンの前で言うなよ」


どこからか、私の思考は心の声ではなくなっていたらしい。
正面に座るシャチは呆れた様な眼差しで私を見てくる。その視線を受け流し、私はまた近付いてくる2人をガラス越しに眺めた。

自然と頬が緩む。親友の恋路はため息が出るほどに順調だから。



休日の昼下がり。
もうすぐペンギンの誕生日だから何かしようぜ!と提案してきたシャチの連絡があったのはつい先程のことで、誘われるままカフェに集合。
ちなみに何か…といっても今年もバラティエでパーティなのは分かりきっている。要するにシャチは単に暇だったんだろう。まぁ、私もだけど。

陽気な日差しを浴びながら、背を伸ばして欠伸をひとつ。ちらりと店の外を窺えば、もう幼なじみ達は目前。ガラス越しに手を振ってきた親友はにっこりと微笑み、その後ろにはぴくりとも笑わない男。


「本当、対照的ね」

「キャプテンがにっこり笑う方が怖ェって」

「まぁね」


もう目の前には2人の姿はなく、私の視界には向かいの店の看板が映り…

そして、閃く。

思わずつり上がった口角。ふふっと笑えば、シャチは何事かと肩をはねあげる。


「ナミ、お前の笑顔も怖ェよ」

「失礼ね。で、シャチはあの店のこと知ってる?」

「あァ…確かあいつから聞いたな。ホールで1万ベリーだろ?おれも興味はあるけどよ、さすがに手が出せねェよな」


私とシャチの視線の先は、小さな洋菓子店。最近オープンした店だが、ケーキが美味しいと口コミが広がりあっという間に有名店へ…というのは親友からの情報。
だがシャチの言葉通り、ホールで買えば1万ベリーは軽くする。つまりはセレブ御用達の店であり、まだ誰もそのケーキを食べた事がない。


「食べたい気持ちはあるのよね?」

「は?お前、買う気か?……えっ、お前が?」


そんな会話をしていれば、入店を知らせる可愛いベルの音。数秒後に現れた2人に挨拶しつつ、さらりと失礼な事を言ったシャチの足を軽く蹴っておく。


……


他愛ない話もそこそこに、席を外した親友の背を見送った後、トラ男へと微笑む。分かってはいるが、その眉間には皺が寄った。


「…何だ」

「あの子から向かいの洋菓子店の話聞いた?」

「いや」

「あら。ここまで来たのにあんたには言ってないんだ?シャチには話したって言うのに。遠慮してんのかしら…」

「…何の話だ」


続く言葉を予想してか、シャチの顔色が悪くなっていく。テーブルの下、ヒールでシャチの足先を牽制しつつ、私は話に食い付いてきた男からあの店先へと視線を移す。


「ずっと前からあそこのケーキが食べたいって言ってたのよ。でも値がはってね。てっきりおねだりでもしてるかと思ってたんだけど…」

「……」

「仕方ないわ。せっかくだから私が買って、」


そう言いつつ席を立とうと腰を上げれば、私よりも先に立つ男。実に分かりやすい…あの子に関する事に限定されるが。


「よし、3時のおやつはケーキ!ここからならシャチの部屋が一番近いわよね」

「あのなァ…お前、」

「あれ、ローは?」

「ほら!あそこのケーキ、あいつが買ってきてくれるんだって」

「…えっ、ローが?」


席に戻ってきた親友は洋菓子店に入って行く男を見つけて目を丸くさせ、シャチは項垂れるように肩を下げて。
私はこれからの楽しみを見出だし、肩を揺らすのだった。



2013.11.11 (Mon) 00:34
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