私は誰にも必要とされなかった。
当然愛されもしない。
世界に私はうんざりしていた……、うんざりというか、もう何も感情がなかったのだと思う。
レイにしてくれた劉黒様は私にとって、神なんかよりも崇拝できるような存在だった。
あの世界から救い出してくれたのは、劉黒様だったんだ…───。



「それは…キッカケにすぎなかったんじゃないかな。」
「え?」



顔を上げると、祀翠様が静かにこちらを見ていた。
『ごめんね、勝手に』
彼はそういいながら目を伏せた。



「確かに、形的には劉黒様が助け出したんだと思うよ。でも──」






「本当の意味で凪冴を救い出してくれたのは、誰だったんだろうね。」



『祀翠?何か言ったか?』
『いえ、何でもありません。』



机に向かっていた劉黒様がこちらを向いた。
多分、祀翠様が劉黒様の名前を出したから反応したのだろう。
祀翠様が笑顔で返すと、劉黒様もまた“そうか”と笑顔で返した。



私は、ただ祀翠様の言葉が引っ掛かっていた。
本当の…意味──?







『初めまして白銀様、凪冴と申します』







『お前、劉黒に似て天然なんだな。』
『…て、天然?』
『いや、鈍臭ぇだけか。』
『ど、どんくさい…?!』








『おい、そこの。』
『……』
『おい!無視してんじゃねぇ!』
『え?何か。私には名前があるんですが。』
『チッ!おい凪冴!』
『舌打ちする人の話なんて聞きません。』






『だーかーらぁー!!』
『耳元で叫ぶなっ!』
『白銀は何にも分かってないんだから!はぁ…これだからサラサラストレートヘアは。』
『お前…それ褒めてんのか?けなしてんのか?』






初めて会ってから、今まで。
そういえば、そんなことがあったなぁ…。
懐かしむ半面、私の変わりように驚いた。
こんな風に懐かしむことも初めてだった私は、少しだけ自分の本当の気持ちに気付いたのかもしれない。



──私…本当は…───



劉黒様がそのあと、誰宛に手紙を書いていたのかは知るよしもなかった。





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