初めての外
部屋から私の意思だけで出るのは初めてでドキドキしてしまう。きっと父の事だから扉になにか魔法をかけてると思ったけど、今日はレギュラスが居るためなのか扉はすんなりと開いた。

「どうやって外に出る?」

「どうやってって・・・」

この城は変な魔法がたくさんかかってて移動手段が限られているらしい。煙突飛行なんてもの昔母がブラック邸で使用するまで知らなかった。多分この城では煙突は使えない。正当法で玄関からってのも難しいかもしれない。

「貴方、箒得意?」

一瞬嫌そうな顔をした彼を無理矢理倉庫室に連れて行き、そこから見つけた古い箒を押し付ける。ガラっと窓を開けると新鮮な空気が入ってきた。

「窓から出ましょ。多分玄関は開かないわ。」

彼はごくりと唾を飲むと、”わかりました”と言って箒を受け取った。




ふわっと身体が浮かぶ感覚がする。目の前の男の腰にぎゅと抱きつきながら初めての感覚を味わう。

「レギュラス、貴方結構上手いじゃない。」

「そんなことよりしっかり捕まっててください。」

「はーい。」

初めての空の上はなんとも言い難い感覚だった。浮いている。風が私の頬をかすめ日差しが暖かく心地よい。一向に景色は緑ばかりで変わらなかったけれど城にばかり居た私にとってただ生い茂っているこの森さえ新鮮に見えた。一回りするとレギュラスが”そろそろ戻りませんか?”なんて30分も経たない内に言うけど今の私はとても機嫌が良い。”うん!”っと頷いたら安心したように彼は来た道を戻って行った。急な着地にわっと尻餅を着きそうになる私の腕を引いてくれる。

「ありがとう」

「いえ、当然の事です。」

さすがブラック家だけあって紳士だ。感心したように彼の顔をジッと見ていたら、なんだか部屋の外が騒がしい。何か起きたのだろうか。レギュラスも不思議そうに扉を見ている。箒を置いて自室に戻ろうと部屋の取っ手に手を伸ばしたその時、突然目の前の扉が大きな音を立て開いた。

「なまえっ!!!」

急に現れた人が私を抱きしめ、ヒステリックに近いような声を上げる。

「お母様、耳が痛いわ。」

「なまえ、今までどこに居たんだい?お前が居なくなったと知って城中大騒ぎだよ。」

やばい。瞬時に今の状況を理解してしまった私はチラッと隣にいるレギュラスを見ると顔を真っ青にして小刻みに震えている。私の視線に気づいたのか母がレギュラスを見るや私を抱きしめていた腕を解き杖をレギュラスに向け怒りを露わにする。

「お前か!!レギュラス・ブラック!!!」

「お母様、落ち着いて。私の耳が壊れてしまうわ。それに違うの。」

「なにが違うんだい!?」

「お父様が、レギュラスに魔法を教えて貰いなさいって仰ったの。」

「我が君が?」

「そうよ。だからどうしてもって、お願いして箒の乗り方を教えてもらってたの。彼が悪いんじゃないわ。」

「・・我が君が・・、でも、なまえ、部屋から出たいなら一言、言ってちょうだいってあれほど言ったのに。」

「ごめんなさい、お母様。ほら、杖を下ろして」

落ち着いてきた母の頬を撫でると安心したように私の顔を見つめてくる。母は父の名を出すと弱い。レギュラスには悪い事をした。きっと窓から出た瞬間からばれたんだろう。倉庫部屋の窓からでもわかってしまうのか、もうこの城から誰にも知られずに外に出てしまうなんて無理なのかもしれない。

「じゃあ、お母様。私、レギュラスと部屋に戻ってお勉強の続きをするわ。お父様が励むよう言っていたし、ね?」

「わ、わかったわ。」

レギュラスの手を掴むと急いで自室に駆け込む。よかった、上手くごまかせた。扉を閉めソファーに座って一息つこうと思ってたら、先客が居たらしい。ソファーに優雅に腰掛け素敵な笑顔を向けてくれる。やばい。ぞくりと背筋が凍る。

「なまえ、おかえり。」

「・・ただいま、お父様。ここ私の自室よ?入るなら一言欲しかったわ。」

「あぁ、ごめんね。その自室の主が急に居なくなるから、許可を取れなかったんだ。」

「あら、解ってたんでしょ?部屋から出たって。」

ふふっとお父様と笑い合うと、父は私の後ろに居るレギュラスを見つめる。

「ご苦労だったよ、レギュラス・ブラック。我儘な娘に付き合わせてしまって、悪かったね。」

「い、いえ、そんなことは・・」

繋いで居た手を強く握ってレギュラスに合図する。大丈夫よ、と。伝わってるのかわからないけど、きっと彼は今恐怖に怯えているだろう。このままでは、私のせいでレギュラスがお仕置きされてしまう、あの日の女の人のように・・。こうなったら奥の手しかない・・。

「・・・ねぇ、オリオン様は?」

「あぁ、オリオンなら今頃君を必死に探して居るんじゃないかな?」

「あら、ご迷惑をかけてしまったわね。」

「全くだよ。」

「・・あのね、お父様。私レギュラスの事凄く気に入ったの。だから私、レギュラスと婚約したいわ。」

ギラッっとした赤い瞳が私を捉える。いくら私を外に連れ出した張本人でも私の婚約者になってしまえば父は手を出せないだろう・・。

「君にはまだ早いんじゃない?」

「そう?なら、今からレギュラスとお付き合いする事にするわ。」

後ろに振り返り”ね?”っと言って答えも聞かず、背もそんなに変わらない彼のネクタイを引っ張って唇を奪う。

「親の前で随分大胆なことをするね。」

「あら、お父様が認めてくれないのがいけないのよ。」

「君をそんな風に育てた覚えはなかったんだけどね。」

そう言って諦めたように扉の向こう見て”オリオン”と言った。まさか、オリオン様が居るとは思ってなかった。そもそもさっき私を捜してるなんて言っていた癖に、この男は・・。扉が開きオリオン様が入って来ると私達を見て渋い顔をした。

「オリオン、僕の娘と君の息子が付き合うらしい。・・祝福しようじゃないか。」

「・・はい、我が君。」

「お父様・・、私の彼に手を出さないでね。」

「ふふっ勿論だよ、なまえ。」






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