縮まる距離
最近の私の周りは異常だと思う。正確には、ブラック兄弟なのだが。2人揃って恋だの愛だの。もぅ、私に言われても困るわ!!なんて思ってたら私の様子に気付いたのかハウスエルスがミルクティーを淹れてくれた。あぁ、美味しい・・・。


「なまえ様。」


「なに?」


「お悩みがあるなら私、ガイザーめに仰って下さい。力になれるかは解りませんが、ため息を付く貴女を見るとガイザーはとても悲しくなってしまいます。」


「・・・一層の事あなたと駆け落ちしたいわ。」


「はい?」


「いや、こっちの話よ。」


「ブラック様となにかあったんでございますか?」


どっちのことを言ってるのだろうか。うーんと考えて居ると

「恐縮ながら私は、前婚約者のブラック様より現婚約者のブラック様の方が良いかと思います。」


ややこしい言い方をするなー。んー、あぁ、レギュラスの方が良いってことか・・・あれ?

「・・・話、聞いてたの?」


「あなた様を見ていれば解ります。#なまえ#様が産まれる前から一緒ですから。」


あぁ、確かに、ガイザーとは小さい頃から遊んでもらって居た。私の両親は私に甘いけれどそれは、なにか我儘を言ったらなんでも叶えてくれるってだけで、忙しい彼らあまり一緒に居てはくれなかった。きっと、我が儘を聞いて、可愛がっていれば娘は満足だと思っているんだろう。私はただ、一緒に居てくれるだけで良かったのに。そんな小さい頃の私はずっと寂しかった。そんな私と唯一、一緒に居てくれたのがガイザーだった。


「それで、あなたはなんでレギュラスを押すの?」


「兄の方のブラック様とこの家を出て行かれたら私が寂しくなってしまいます。」


「あら?でも、面倒な仕事が減っていいんじゃない?」


「ご冗談が過ぎますなまえ様。」


「ふふっ。本当に、あなたが人間だったら駆け落ちしてたのに。」


なんて笑っていると、あきれた様子のガイザーは思い出したように私に真剣な顔を向けてきた。


「なまえ様」


「んー?」


「今夜ブラック様をお招きしてのお食事会がありますので、18時までにお着替えのお手伝いをさせていただきます。」


あぁ、今日か。お食事会って言っても、どのように私達の婚約を公式の場で発表するかなど、今後の打ち合わせみたいなものだ。婚約パーティか。シリウスとの婚約パーティは顔合わせして3日も経たぬうちにした。その頃の彼はまだ、私のことを認めてないようで、ダンスをするにも、お客様に挨拶するにも、ずっっと彼は不機嫌だった。多分私も眉間にごっこり皺が入っていただろう。でも終盤、疲れた私たちはこっそりバルコニーに出てお互い最悪だの、なんであんたなのよ!など口喧嘩をしたら、パーティ終わった後、離れるのが少し名残惜しいくらいには仲良くなっていた。懐かしいな。その日以来シリウスとは毎日手紙を交換するようになった。彼がホグワーツを入学するまでだけど・・・はぁ、パーティ苦手だなぁ。今度はシリウスも居ない。レギュラスはきっと上手くエスコートしてくれるだろうけど、なにぶん先日のことがあり気まずい。私は不安な気持ちになりながら、”とりあえず、夕食の時に顔を伺ってみるか”と、意気込んでみた・・。






あれ?何かおかしい。目の前の彼は落ち着かない様子で視線を漂わせている。私達の両親は今頃、お酒も入っていつも以上に盛り上がって居るのだろう。先程、私に”レギュラスを私の部屋に案内したらどうだ”と、パーティを行う日程など簡易な話し合いが終わった後父に言われ、賛同したブラック夫妻にも”あら、よかったじゃない。案内してもらいなさい”なんて言って私たちを広間から追い出したのである。3回ぐらいしか会った事無い人を部屋に入れるなんて少し抵抗があったけど、この場合しょうがない。それに今は、この婚約者をなんとかしないと・・。何も言わないレギュラスに痺れを切らした私は、沈黙を破る事にした。


「・・・式、思ってたより結構はやいね。」


「そ、そうですね。」


「レギュラス」


「なんですか?」


「緊張してる?それとも、私の部屋ってそんな珍しい?」


「あ、いえ、すみません。女性の、それも好きな人の部屋に入るのは初めてで・・・」


「・・・大丈夫、なにもしないから緊張しないで。」


一瞬2人の間に沈黙が走ったけど、直に彼が話しかけてくれた。


「・・・なまえ」


「なに?」


「ピアノ好きなんですか?」


「うん、趣味程度には好きよ。」


そう言って部屋の中心に置かれて居るグランドピアノに手を乗せると、”一緒に弾こ?”と誘ってみる。長い沈黙を我慢するよりかは大分マシだ。シリウスもたまに遊びに来て、ピアノを一心不乱に弾きならしていたのを覚えている。だから、きっと彼も教養程度には出来るだろう。私の読みは正しかったらしく”喜んで”と、はにかむ彼は私とピアノに向かって歩き出した。・・やっぱり顔が良いのかピアノがよく似合うと思う。一緒に座ると肩がくっ付いて隣からふわぁと彼の匂いが漂ってくる。


「私、レギュラスの匂い好きなの。」


驚いた彼の姿が目の端に見え、彼の様子に満足した私は目の前のピアノに手を滑らせる。隣の彼からも手が伸びて来て、綺麗な音色が私達を包み込む。彼と奏でる音は一人ぼっちで弾いてる時とは違って、音も数段輝いて聞こえた・・。


「・・・なまえ」


彼が優しく私に声をかけて来たのは何曲か弾いた後、曲の余韻に浸っていて次は何を奏でようか迷っていた時だった。


「なに?レギュラス、落ち着いたの?」


ふふっと笑うと彼は照れたように目線をそらし、ズボンにあるポケットの中から箱を取り出した。


「これ、受け取って欲しいです・・・。」


パカッと開けたそこにはキラキラ輝く少し大きめの石が埋め込まれた、プラチナの指輪があった。そんな指輪はシンプルだけど彼らしい。


「綺麗・・・。」


そう呟くと彼は照れ臭そうに笑い、私の手を取った。すっと、私の左の薬指にリングが通っていく。


「とても、似合ってると思いますよ。」


「・・・レギュラス」


彼は満足気に微笑むと指輪の上にキスを落とす。そんな彼の顔が、月の光を浴びて更に輝いて見える。指輪に負けないくらい綺麗だなぁって思って、彼の顔を見ていたら胸の奥がだんだんきゅーっと締め付けられ、鼓動が何時もより早いのがわかった。


「なまえが、僕のこと見てくれるまでここにはしませんが、その代わり、もぅ少しだけピアノを一緒に弾いてくれませんか?」


私の唇をすっと撫でる彼はなんだか色っぽくて、私と同じ気持ちだとわかって嬉しくなる。”貴女と一緒に弾くのにはまってしまったみたいです。”そう言った彼は、私のきゅーと締め付けられていた心を緩やかにしてくれた。未だに鼓動ははやいけど、穏やかな気持ちになる。”私も、はまっちゃったみたい・・・”ぽつりと呟いた声は誰にも届く事は無く消えていった。






縮まる距離。






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