れもんのような初恋。
"僕を見て下さい。"


昨日起きたことが信じられない。あの後気まずくなってしまった私は"帰る!"とだけ言って、さようならも言わずに逃げるようにして帰ってしまった。今でも彼のさみしそうな表情が忘れられない。
私は恋ですらあやふやなのに、人を愛するなんてこと、出来ないんじゃないかと思う。レギュラス・ブラックかぁ・・・。でも、あの時感じた嬉しさは紛れもない真実で、今度会う時は、もっと彼と話をしてみたい。

考えていたら廊下の方が騒がしい。なんだろうなんて考えていたらばーんっといきなり私室のドアが開いた。


「よお!なまえ久しぶりだな!」



「ちょっと!どうやって入ってきたのよ!」


なんて、小さい頃から何度も出入りしていた、元婚約者の彼に聞くのは愚問だったかもしれない。後で、ハウスエルフちゃんと言っておこう・・。
彼と顔を合わせるのは、久しぶりで、急な婚約破棄が起こる1ヶ月ぐらい前にあったきりだ。その時のこいつは思い詰めているような顔をしていて、結構なんで呼びつけたのか言ってはくれなかった。


「今日は、その、悪戯のお誘いをしに来たんじゃ無いんだ。」


そんなの知ってる。彼がグリフィンドールに入ってから私の相手をあまりしてくれなくなった。なんでも、同じ寮のやつらと釣るんで悪戯仕掛け人なんてものをしてるらしい。


「それで、悪戯のお誘いじゃ無いならなんなの?今度ははっきり言ってよ?」


「お前、その、レギュラスの婚約者になったんだろ?」


「あぁ、その話?なに、元婚約者の私が今更恋しくなった?」


ニヤリと笑ってやれば、珍しく真剣な顔をしている彼と目が合う。


「ごめんな、なまえ。」


「・・・なによ、今更。シリウスが逃げ出すから悪いんでしょう。」


「悪かった。俺が家を抜け出したらこうなるって事も、全部解ってた。お前が、人見知りってのも知ってたし、婚約者ってもの自体、嫌がっていたのも知ってた。」


確かに、決まった人にしか私は懐かないタイプだと思う。なので、小さい頃から一緒にいたシリウスじゃなくて、会ったことも無い婚約者に変わるって聞いた時は、それこそ彼の様に家を飛び出そうとも思った。それが出来なかったのは私が弱いってのもあるけど、彼の様に頼れる友達が周りに居なかったからってのが本音だ。私の周りにはみょうじ家って名前が大好きなお友達しか居ないからなぁ・・・。


「お前、勿体無いよなぁ。なまえなら、笑っときゃ簡単に出来そうなのに・・・。いろんな奴から声かけられただろ?」


「・・・確かに、私の家柄に取り繕くろうとする奴らはわんさか居たわ。それがどうしたの?」


「・・・。なまえはもっと、自分の顔を鏡で見た方がいい。」


彼は、はーっと呆れた様にため息を付くと、私の座っているソファーにドカッと座った。


「・・・なぁ、なまえ、恋ってのは結構、素敵なものなんだせ?」


「・・・さっきから、なに言ってんの?」


「単刀直入言う。この家を出て、俺のとこ来ないか?」


「馬鹿なんじゃないの?貴方とは違うわ。」


「俺が、お前に・・なまえに恋を教えてやるよ。今度は婚約者なんかじゃ無くて、恋人としてそばに居て欲しいんだ。」


「そろそろ怒るわよシリウス?あんた、今まで自分がして来たこと解ってんの!?」


目の前のこいつ、シリウス・ブラックは、婚約者の私がいても他の女の子に手を出していて、私一人を見てはくれなかった。
別にそれでいいかなとか思ったけれど、気持ちとは裏腹に、わがままな私は、結局の所私1人を見て、私1人を愛して欲しかったのである。
別にそれが恋だったのか、はたまた子供が持つようなただの嫉妬や執着心だったのかはもぅ解らないけど、もし、シリウスが初恋と言うなら、レモンのような酸っぱさしかない、どうしようもない恋だった・・・。



「ああ!解ってるっ!その度お前が隠れて泣いて居たこともな!!・・・わがまま姫なんて呼ばれてるくせに結構純粋だったよな、お前。」


「本当、ありえない。」


「・・・なぁ、なまえ、今すぐにとは言わない。この休暇が終わる頃に答えを聞きに来る。だから、真剣に考えてほしいんだ。

俺との駆け落ちを・・・。」


そう言うと彼はどっからか、長方形の可愛らしいラッピングされた箱をくれる。


「ほら、やるよ。」


彼が婚約者だった時、私の部屋に遊びに来る時は決まってお土産だっ!なんて言ってプレゼントをくれた。
それは、綺麗な花束だったり、ワンピースだったり。私の大好きなものばかりだった。私1人を見てくれなかっただけで、私をちゃんと見て居てくれたから出来たことだと思う。


「もぅ、貰えないと思ってた・・・。」


「お前、いつも楽しみにしてただろ?それに、婚約者じゃないとプレゼントしちゃだめだってルール、俺は知らないぜ?」


二カッて笑った彼は、弟のレギュラスとはまた違った笑い方をする。あぁ、この笑顔が好きだったな。
箱を開けると金色に輝くネックレスが入っていて、その先端にはキラキラと輝く石が1つある。


「シリウス、あんた家飛びたしたくせによくこんなお金あったわね。」


「あの時・・・最後に婚約者としてなまえに会った時に渡そうと思ってたんだよ。」


「あぁ、あの時・・。」


「お前、怒って帰っちまうから・・。渡せないかと思ってすごく、ひやひやした。」


渡せて良かった。なんて言って彼は満足気に笑った後じゃあ、俺帰る!またな!っと風のように帰って行った。


シリウスは、いつも帰り際、照れたようにプレゼントを渡してくれたな。そんな彼が大好きだった。別にプレゼントくれるってことじゃ無くて、彼の気持ちが嬉しかったのだ。私がありがとうって言うと、一層顔を赤くして、べ、別にただのお土産だ!なんて言ってたっけ。





あぁ、シリウスは、やっぱり、初恋の相手だったかもしれない・・・






れもんのような初恋。




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