向けられた愛
それから暫くして、婚約者の彼、レギュラス・ブラックから手紙が届いた。ふわぁっと良い香りがするその手紙を広げると綺麗な字で


"次の土曜日、家に来ませんか?なまえに会いたいです。"


なんて書いてあった。なんとなく、これからもずっとほったらかしにされると思っていたから驚いた。
彼の顔は正直タイプだと思う。目鼻立ちもくっきりしていて身長もそれなりにあるし、黒いサラサラとした髪は思わず触れてみたいと思ってしまうほどだった。けど、タイプと好きは私の中では別問題である。タイプだからといってそんな簡単に恋愛ごっこなんて無理だし、そもそも彼を愛せるかさえ疑問だ。レギュラス・ブラックとはあの時しか話しをしてない、結局のところ彼のことは、なにも知らないのである。


・・・確かに、このまま結婚ってのは、お互い良く無いのかもしれないなぁ。


少し面倒ではあったものの、流石の私も、婚約者であり、ブラック家の次期当主様に誘われたらNOとは言えない。"喜んで"だけの素っ気ない手紙をフクロウに渡すとクェエエっと嬉しそうに鳴き、行ってしまった。








時が過ぎのるは速いもので、気がついたら土曜日になっていた。


「変じゃない?」

「とても、お綺麗ですなまえ様。」

「ふふっ、いつもありがとう。」

お気に入りのワンピースに着替え、整えてくれた髪にバレッタを付けてもらい、薄い化粧をほどこして貰った。私の家のハウスエルフは私の事をよく見てくれていると思う。どんな色が私に合うのか、どんな髪型が私のお気に入りなのか。そんなハウスエルフが手掛けてくれた私は、自分で言うのもなんだけど、結構可愛いんじゃないかと思う。


「じゃあ、行ってくるわね。帰りは多分、速いと思うわ。」


「はい。気をつけていってらっしゃいませ。」


ハウスエルスに微笑むと、暖炉に入ってフルーパウダーを足元に振った。"ブラック家"と言えば目の前から待ってましたと言わんばかりの素敵な笑顔を向ける婚約者が居た。



「来てくれて嬉しいです。」


「私も貴方に会えて嬉しいわ。」


ぎゅぅっとハグをすれば良い香りがする。あぁ、この前の手紙と同じ香りだ・・この香り好きかも・・、もぅちょっと嗅いで居たくて更にぎゅっと抱きしめたら、顔を紅くした彼が、焦ったように私の肩に手を置き、軽く押してきたので私達の間に少し距離が出来てしまった。


「なまえ、今日は父と母は居ないんでゆっくりして行ってください。」


「えっ、いないの?」


「はい!」


え、待って、彼は微笑んでるけど、両親がいない中、家に女を招くのはどうなんだろうか。いや、婚約者だから別に良いのだろうか。
悶々と考えて居るとレギュラスは、私の肩から手を離すと、私の手を取ってソファーへと案内してくれた。


「紅茶は何が好きですか?」


「あぁ、私、ミルクティーが好きなの。だからアッサムがいいわ。」


私がそういうと、僕もミルクティー好きです。なんて言ってハウスエルフに2人分のミルクティーをお願いする。 暫くすると良い匂いのする紅茶と、出来たてのクッキーを持って来てくれた。


「ありがとう、クリーチャー」


彼はハウスエルフに微笑んでお礼を言うと、私にどうぞっと、それを勧めてくれる。


「今日のなまえ、いつもよりなんだか、綺麗ですね。」


「え?」


「・・・そのワンピースも似合ってると思います。」


彼は頬を紅く染めながら褒めてくれる。あぁ、なんて優しい人なんだろう。なんだか嬉しくて、照れてしまう。


「ありがとう。でも、貴方には負けるわ、レギュラス」


最初に出会った時の彼をマネして悪戯ぽく笑ってみせた。

そこからは、2人の趣味の話をしたり、ホグワーツでの話をした。彼はクディチが好きらしく、我が寮のシーカーを勤めているらしい。 今度、見に行くね!なんて、思っても無いことを言えば、是非!っと嬉しそうに微笑んでくれた。そんな彼の笑顔がかっこ良くて、気が向いたら行こうかな。なんて思ってしまう。
ホグワーツでは寮が一緒だったというのに、私が、周りの人に無関心過ぎて気付いて居なかったらしい。レギュラスはさみしそうな顔をして、"僕はなまえの事をよく見かけましたよ。"なんて言うから少し、申し訳なかった。




「兄弟って言うけどあまり似てないんだね。」


「兄とは、あまり仲が良いとは言えなかったので、性格の面ではそうかもしれません。」


「・・あぁ。そうなんだ。」


気まずいことを聞いてしまったかもしれない。私だって実の兄とはそんなに仲が良くない。食事の際顔を合わすぐらいで、話したことなんて殆どない。
でも、 彼の兄、シリウスと仲が良かった私は、仲の悪かったレギュラスと仲良くなれるのだろうか。・・・難しそうだな。


「・・・なまえ、急に婚約者が変り、びっくりさせてしまって、申し訳ございませんでした。」


「大丈夫、そんなに気にしてないから・・。」


私の両親が、急な婚約者変更に不満を漏らしていたのを気にしているのかもしれない。


「・・でも、貴女と兄は・・・お互い仲が良かったから・・・」


レギュラスは小さな声で言うと悔しそうな顔をする。


「・・・確かに、私達は婚約者同士だったけど、でも、特別な感情を抱いたことは無かったと思うわ。」


「・・・えっ?」


「あのねレギュラス、貴方も別に私の事愛さなくても良いわ。別に他に好きな人がいても構わな「いやです」


彼は私の言葉を遮って、少し怒ったような口調になる。


「僕は、貴女のことがずっとずっと好きだったんだ・・っ・だから・・他の女性なんていらない。」


「レギュ・・ラス?」


レギュラスとの距離がなんだか近くて、腕が伸びてきたと思ったら私の右頬を彼の綺麗な指先が、優しく、そして壊れぬよう貴重品を扱う様にして触れてくる。


「・・だから・・・っ、貴方も僕の事好きになって、愛して欲しいです。・・なまえ・・・僕じゃだめですか?」


彼に触れられている部分が熱くなってきて動揺してしまうけど、なんだか嬉しい気持ちになってくる。 けれど、そんな簡単に切り替えられるわけでもなくて、"考えてみるわ。"なんて言って、わがままな私は目の前の彼を、また、さみしそうな顔に変えてしまった。




「僕を見てください。なまえ」




そう言った彼はとてもさみしそうな顔をしていたけど、とても綺麗だった。






向けられた愛。
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