拝啓、カミサマ | ナノ
26
「誰がマウンテン殺鬼だって?あん?」
「モヒカンさん」
「ザキィ、戻ってやすぜィ、ぷぷ」
「はっ!…あのね!お!れ!は!」
「あはは!」
「何が面白いの?若い子の笑いのセンス分からない…」
「いや、すみません。実は存じ上げてます。山崎退、さんですよね?」
「何で知ってるんでィ」
「それは…」


言えない、徳川家の人間だと…


「え、え、え、えっと…」
「言えねェような身分ってか?」
「沖田さん…こんな無邪気な子がそんな…」


ヤバい…反政府だと思われてない?これ?


「あのー…松平の………」
「あ!もしかして、栗子ちゃんのお友達?」


モヒカン、ナイス!


「そ、そうなんですよ〜。よくお父様のお話もお聞きしていたので…」
「へェ、」


絶対信じてないよこの美少年!



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其れからも私は家居たく無くて、頻繁にあの場所へ行っていた。大層な人間じゃ無いのに周囲から期待されて、慎ましい女性を演じていくのが苦しくて…


「君また居るの?」
「面倒臭そうに言わないでくださいよ。こっちだって来たくて来てる訳じゃないんですけど」
「あ、何かごめん…」


会う度にこんな何気無い会話ばかり。でも私の事を徳川家の人間じゃなくて一人の女の子として会話してくれていて本当に嬉しかった。


「いやぁ、本当、人は見かけによりませんなぁ」
「それ俺の事言ってる?」
「へ?山崎さん以外誰が居るんですか?」
「…泣いていい?」


松平さんからはモヒカン頭としか聞いてなくて、怖い人なんだろうなぁって思っていたけれど、話してみたら結構優しい人だった。家の事の悩みとか、思春期ならではな事とか、縛られて生きていかなきゃいけないんだ、とか…色々相談を聞いてくれてとても励まして貰って。


「ん〜、まぁ家の事は良く分からないし、俺も人の事言えるような人間じゃ無いんだけどね」
「???」
「このままだったら成るようにしか成らないし、周りを変えたいんだったら先ず自分から行かなきゃ駄目だよ?それにね、君が頑張っていたら、きっと親御さんも分かってくれる日が来るよ!」
「その自信どっから来るんですか…」
「うーん、」
「でも、有難うございます!そうやって言ってくれる人今迄一人も居なかったので…」


これは本当。
徳川家の子孫だから、誰も本気では言って来ない。
徳川家の人間だから、過度な期待しかされていない。
徳川家の檻に入れられた、只それだけで…


「でもさ、女の子なんだからこんな時間にこんな場所居たら襲われちゃうよ?」
「それって山崎さんとかですか?主に?」
「う、やっぱ泣いていい?」
「あ〜!嘘ですごめんなさい!!」


この日を境にあの場所へは行かなかった、否、行けなかった。母親に暴露て監視が付き、それに対して父親は知らん振り、と言うか母親に何も言え無いのだろう。散歩くらい良いでしょ!と監視の目を掻い潜ってみたものの、行けても日中。夜が更けると、部屋に鍵を掛けられ外出は不可能だった。


「なまえ、もう出ても良いよ」
「…お父様、」
「あれから三ヶ月、もう良いだろうと母さんに掛け合ってみたんだ。母さんは年頃の娘に!とか言っていたけれど、そう言う問題でも無いしな…」
「何が言いたいの?」
「年頃なら年頃らしく青春しなさいって事だよ」
「お父様、頭打った?」
「失礼な…」
「ごめんなさい…」
「兎に角、夜更けに出て行ってたのは理由あっての事だろうからね。それについても聞きたい処だけど、言いたくなったらで良いさ」
「お父様、やっぱり頭打ちました?」



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兎に角早く会いたくて私は必死に走っていた。流石に三ヶ月も来てないし何も言わずに去っていったから、恐らく彼は居ない。それでもきちんと言っておきたかった、直接会って言いたかった、ごめんなさいって。


「…や、山崎さん!?」
「あん?」


居ないと思っていた彼がまだこの場所に来てくれていて嬉しかった。あれ?てか今マウンテン出たよね?聞き間違い?


「君か…」
「ご、ごめんなさい、私…」
「別に良いよ。何か風の噂で聞いたから」
「…え?」
「ねぇ、君。俺に何か言うこと無い?」


その時の彼の眼はとても真っ直ぐで、眼を反らせなかった。


「あ、あの…髪、伸びましたね」
「そこじゃなくって…」
「すみません、つい癖で…」
「はぁ…」
「あの!私!」
「うん、何?」
「山崎さんに沢山励まして貰って、甘えてた私に対して初めて怒ってくれた人で、凄く嬉しかったです!ちゃんと逃げないで立ち向かおうって思えました!だから、」
「まぁまぁ、落ち着いて…」
「私、山崎さんに会えて良かったです!」
「俺も妹が出来たみたいで何か嬉しかったよ、有難う」
「そんな、滅相もない…!」
「処でさぁ、俺、君の名前聞いてないんだけど、」
「あ、すみません。私、


徳川なまえって言います!
(うん、知ってる)(え!?な、な、何で)(だから風の噂)
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