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清ク正シク美シク、
如何なる時も嘘偽りなく謙虚で真面目に生活し、
立ち居振る舞いは美しく気品を保て。
誰に対しても疑いを持たず、もてなしの心は忘れず、
男性を立て、聞き上手であるべし。
さすれば良い縁談に恵まれよう。

小さい頃から刷り込まれ続けた教えを思い出し、定食を貪りながら私は二度溜息をついた。


「…阿保くさ」


これが一体何代目から続いているのかは不明だが、確かに我が家は良い縁談に恵まれている方だろう。但し私自身を除いては。

おかげで嘘をつくのが下手で率直すぎるし、疑えないから騙される。
女性らしく振る舞えば男性は寄って来たけれど、来る人来る人、只の我儘で傲慢な俺様タイプ。
男性を立てる事を優先しているから、こちらが何も言い返せないのを解られている。
頼りがいがあればまだ許せるが、それすらないのだから厄介であった。

そのあたりから冒頭の教えが阿保くさくなり、それなりに人は疑うし、自分の意見も通してきたつもりだ。厄介な男性に引っかかる事は無くなったが、同時にお付き合いする人自体が減ってしまった。
数ヶ月前に焦りも感じて男性が多そうな職場に転職。しかし予想は大幅に外れたようで、此処には体たらくな野郎しかいなかった。


「さっきからうわの空だけど…もしかしてみょうじ、彼氏欲しいの?」


この男はいつもそうだ。違和感なく隣に座ってくるし、何も言っていないにも関わらず核心をつかれ、心を見透かされているよう。最初は驚きもしたし正直な処気持ち悪かったくらいだが今となっては日常茶飯事である。


「正直焦ってはいますけど、どうなんでしょうね。」
「何それ」
「此処にまともな男が居ない事だけは解りますよ。」
「答えになっとらんよ」
「…先輩が一番マシですよね、多分。」


マシ、なだけで特別好意的な訳では決して無い。多分、と付け加えたのも同じ職場内での消極的判断である。それなのにこの男にしては珍しく明るい表情だ、察し違いか…?


「…じゃ、付き合ってみる?」


言っている意味がさっぱり分からず、今まさに食べようとしていた焼き魚を落としてしまう。勿体ないと思いながらも、無駄に焦る心を整え落ち着いた口調で応えた。


「こっちは真剣なんで、」
「お試しからでいいんじゃない?」
「好きじゃ無い人とお付き合いはちょっと…」
「しばらくは男避けに使えるし、好きになれんかったら別れれば良いんさ」


表情ひとつ変えず淡々と言葉を放たれる。認めたくないけれど一理あるその一文が私の心を抉る。女の賞味期限は短く、選り好みしている暇は無いのかもしれない。
うーん、んー、などと数十秒ほど小さく唸りながら、切羽詰まった私は承諾してしまった。


消極的評価論
(好きとかそういう類ではない、絶対に。)(今は、ね。)
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