らぶはぐ | ナノ

重なる影に乱される

この生活もだいぶ慣れ、ある程度なら報告出来る情報を得た。だが俺はあの男の一言が頭から離れないでいる。

―――貴方は大切な人、いらっしゃいますか?

俺だってそう思ってた。それがまさかの同い年で、副長と関係があって、俺とさえ関係を持とうとするなんて…とんだ尻軽女じゃないか。けれど一時の感情に流されて無理矢理してしまったことは後悔している。だからこそ一言謝りたくて潜入捜査の朝、彼女の部屋を訪れた。けれど見なけりゃ良かったとさえ思える光景を目にしてしまったのだ。首元から指輪を取り出し、薬指にはめ天井を仰ぎ見ていた…それはそれは愛おしそうに。


「俺は理想像を押し付けてただけ、か……」


無垢で純粋で歳下で…可愛らしい理想的なオンナノコ。夢見ていただけで叶わんし、想っていても届きやしない。
そんな思考にした張本人、組織の頭であるこの男…今日は気持ち悪いくらいに蒼白だった。さらに腕は痣だらけ、まるで病人のように…


「おや、見られてしまいましたか」
「えっと、あの…すみません」
「構いませんよ。貴方しか知りませんから」


俺だけ、と言うのが妙に引っかかる。薬の試し打ちであれば他の奴等も知っていておかしくないのに…それにこんな…いや、それほどの間柄だからこそ、か?


「不思議ですね。貴方なら話してもいいかも、なんて思ってしまいましたよ」
「何が言いたいんです?」
「僕、もう長くないんですよね」


続けて紡いだ男に、あるまじき事か俺は情が移りそうになる。淋しくも愛おしそうに逢いたいと、そう呟く姿はまるでなまえちゃんと同じ表情をしていたから。あの瞬間と重なって仕方がない。

―――最後に逢いたいんですよ、妻に。

数日前はあんな冷たい目をしていたというのに、どうしてどうして…今日に限ってそんな目をするのさ。俺の心を掻き乱すな、やめてくれ。
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