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『元就ィ!!』
「ぐはっ!!」
「……」
「何奴!? 貴様、元就様から離れろ」
『えー……』
「えー……ではない。早よ、我から退かぬか」
『すまんね』
「八重、貴様、謝る気無いであろう」
『いやいや、そんなはずは』
「……して、貴様は八重の何だ」
「……私は、八重様の……」
『部下。という名の思い人。好きな人。大切な人、以上』
「八重、様?」
いきなり我に抱き付く奴が居た。
彼奴しか居ないのだが。
そんな馴れ合いは嫌なのだが、八重ならば構わないと思う自分が居る。
そしてそんな彼女の傍らに見慣れぬ奴が居た。
あの眼差しが我は気に食わぬ。
が、八重と話すときはまるで大切な人を見る、そんな瞳をしていた。
大谷が言っていた。
八重に好いた人物が出来たと。
もしや、彼奴のことではあるまいな。
八重を好いてる奴は多い。
我や石田も八重を好いていた。
聞くところに寄れば石田の従者と武田の忍も八重を好いているとのこと。
だが実際はどうだ。
八重は彼奴と共に居る。
「八重は、ああ言っていたが……貴様自身はどうなのだ」
「私?私は……八重様と居ると心が安らぐ。時折見せる可愛らしい笑顔、其の全てを私は守りたい」
「……ふん。 八重を泣かせたりしたら我は貴様を許さぬぞ」
『何の話してんの』
「八重様、」
「八重、貴様は何しに此処……安芸にまで来たのだ」
『用が無きゃ来ちゃいけない?』
「そうは言っておらぬ」
『甘味買って来ないよ』
「……」
『元就、疲れた』
「……八重よ、甘味を頼む」
『分かったから部屋貸して』
「うむ」
余程疲れたのか、座り込み寝てしまった八重を見て不覚にも可愛いと思ってしまった。
八重の傍らに居た彼奴が動き共に部屋に行ってしまった。
……彼奴の名を聞くのを忘れたがまぁ、良かろう。
八重が幸せなら其れで我は構わぬ。