01.海風
東の海<イーストブルー>
魚人アーロンを倒し、ココヤシ村を出た麦わら海賊団。
次の島を目指して、航海中だった。
「──ん、何だあれ?」
至って平穏な海。
そんな中に浮かぶ何かを、船長であるルフィは見つけた。
そんな彼の呟きを聞き、彼の傍にいた航海士であるナミが歩み寄る。
「船だわ。誰か乗ってるのかしら」
「船!?」
「ええ。まあ、あたし達には関係な──」
「ゴムゴムのぉ……」
「ってオイ!!」
関係ないし、放って起きなさい。
そう言おうとしたナミの言葉を無視し、船へ腕を伸ばすルフィ。
船を掴んで戻ってくる腕を見ながら、ナミは溜め息を吐いた。
『──きゃぁぁぁぁぁっ』
「え!?」
突然聞こえた悲鳴。
それは船から聞こえるもので。
ナミはまさかと顔をひきつらせた。
そして直後、ナミの瞳に映ったのは予想通り──
「あれ、女だ!!」
少女だった。
跳んでくる船は途中で壊れ、乗っていた少女だけが船に落ちた。
『あたっ…』
「放すな!!」
ガンッ
「いてぇ!!」
「大丈夫!?」
勝手に少女を離したルフィの頭を一発殴り、少女に駆け寄る。
少女はぶつけた箇所をさすりながら、顔を上げた。
『うん、大丈夫…』
「良かった。あ、あたしはナミよ。ナミって呼んで。敬語はなし」
『ナミ?宜しく!私はレイス・アリア』
「アリアね」
早速仲良くなった二人。
アリアはふと、傍でふてくされているルフィが気になり、誰なのか訊ねた。
ナミが船長でルフィと言うと答えれば、アリアはルフィに宜しくと挨拶。
自分に挨拶してくれたのが嬉しかったのか、ルフィはおうと言って笑っていた。
「何だ?」
「敵か!?」
「レディの悲鳴が聞こえたが…」
すると、船室やら何やらから男三名が姿を現した。
剣士であるゾロは頭を掻きながら、狙撃手であるウソップは怯えながら。
コックであるサンジは、フライパンを持ったまま現れた。
『あ、お邪魔してます』
「あ、このコは──」
「メロリーン!!お嬢さん、僕は運命という赤い糸に導かれて、君に逢うためにこの船に乗りました。サンジとお呼びください。あなたのお名前は?」
『え?私は、アリア。宜しくね!!』
「宜しくお願いしまーす!!」
ハートを飛ばしながらクルクル回るサンジ。
アリアがそれを見て驚いていると、ゾロとウソップが歩み寄ってきた。
「おいお前、何者だ?」
「ちょっと、ゾロ!!」
『私?私は、通りすがりの科学者だよ。アリアっていうの。宜しく、…ゾロさん?』
「…ゾロでいい」
『わかった、ゾロね』
ニコニコ笑うアリア。
それからは無邪気さしか感じられず、悪い者ではないと判断したゾロ。
続いて、ウソップも自己紹介。
いつものように大嘘をついていたが、ナミに殴られた。
『ウソップね。宜しく!』
「ところでアリア、お前何でこの船に乗ってるんだ?」
ゾロの率直な疑問。
それに答えたのはナミで、全部聞き終えると、三人は溜め息を漏らした。
「なあなあ」
『ん?』
「科学者って何だ?」
『ん…と、自然科学を専門に学ぶ者…じゃわからないか。実際にやって見せた方が…あら』
辺りをキョロキョロと見回すと、ナミのみかんの木が目に入った。
その中の一部が枯れかけている。
『あのみかん、元気にしてあげる』
「え、ホント!?」
『勿論。女に二言はなしだよ!!』
アリアはそう言うと、鞄から試験管を取り出した。
みかんの気に歩み寄り、その根本の傍らにしゃがみ込む。
『見ててね!!』
試験管の栓を抜き、中の液体をみかんの木の根本にかけた。
するとどうだろう。
枯れかけていた部分が、見る見るうちに潤い、元通り…否、それ以上の艶を取り戻した。
「へえ…」
「「おお…!!」」
「すっごーい!!」
「さっすがアリアちゃーん!!」
ありがとう、アリア!!
抱きついてきたナミを受け止め、アリアはニコニコ笑う。
そんな中、ルフィが目を輝かせながらアリアに話しかけた。
ルフィが何を言うのか。
船員<クルー>達の脳裏に浮かんだのは、同じ言葉だった。
「俺の仲間になってくれよ!!」
「やっぱり…」
『私が?』
「ああ!」
ツッコミを入れるのが疲れたのか、うなだれるナミ。
隣で目を輝かすルフィ。
アリアは一瞬驚いたが、その後眉根を寄せ、苦笑した。
『ごめん、ルフィ。それはできないわ』
「「「!」」」
「えー、どうしてだよ!!」
『元々、私は行かなくちゃいけない島があるし…』
「そうよね…、ルフィが勝手に連れて来ちゃったものね」
「因みに、その島ってのは何処なんだ?」
『グラス島よ』
ウソップの質問に笑顔で答えるアリア。
だが反対に、彼女の答えを聞いたナミは顔をしかめた。
そんな様子に気づいたサンジがどうしたのかと訊ねるが、ナミが答えるより先にアリアが口を開いた。
『だから、私は行くね』
「行くって、お前船はどうすんだよ」
『ああ、其処は心配いらないよ。私悪魔の実の能力者で、飛べるから』
「「「悪魔の実!!?」」」
『うん。…あ、もう行かないと。それじゃあ、またね!!』
最後に笑うと、アリアは強く地を蹴って飛んでいった。
あっという間にその背中は見えなくなり、ゴーイングメリー号には驚く船員が取り残された。
「……す、すっげー!!俺、絶対あいつ仲間にする!!」
「あんた聞いてなかったの!?断られたじゃない!!」
「そーだぜ、ルフィ!!」
「俺もレディが増えるのは嬉しいが、深追いは良くねえ。諦めろ」
「やだ!!」
「やだって、あんたねえ…」
アリアを追うかどうか、言い争いを始めるルフィ達。
しかしゾロは珍しく参加せず、一人彼女が去った後を見つめた。
「(あいつ、最後無理して笑ってたな…)」
アリアの最後の笑顔。
それは無理矢理作ったもので。
ゾロだけでなく、ナミとサンジも気づいていた。
そしてそれがきっかけか、サンジはナミが先ほど言わんとしていたことをもう一度訊ねた。
ゾロも気になるようで、耳を傾ける。
「グラス島は…数年前から、支配されてるのよ」
「支配?」
「そう、ワイポっていう…成金野郎にね」
ナミは、ワイポと呼ばれる奴を酷く軽蔑しているよう。
酷く顔をしかめながら、ゆっくり…先ほどまでのアリアのことを考え直す。
一つ一つ、ピースを集めてははめていく。
そうやって、最後のピースまでいった時だ。
「よし、グラス島に行こう!!」
ルフィが大きく、叫んだ。
当然船員達は驚くわけで。
船員達は皆、ルフィを勢い良く振り返った。
「何言ってんだよォ、ルフィ!!」
「俺は絶対あいつを仲間にする!!」
「だからってねえ…!!」
ポン
反論しようとしたナミの肩を、誰かが優しく叩く。
驚いて振り返ると、サンジが諦めようと言いながら、彼女の肩に手を置いているのだった。
「一度言い出したら聞かねーからな。それに、あいつが持ってた剣…気になる」
「………ハァ…、仕方ないわね。行きましょう。でも、仲間にするのはちょっと難しいかもしれないわ」
「「「?」」」
「もしかしたら、ワイポに酷い使われ方してるのかも…」
さっきのアリアの様子から見ての、憶測だけどね。
身体のあちこちに、痣があったし…。
依然険しい顔つきのナミ。
ルフィはそれを見ると、叫んだ。
「関係ねえ!!ワンポは悪ぃ奴なんだろ!?」
「ワイポね」
「だったらそいつぶっ飛ばして、アリアを仲間にする!!」
「当然だ!!レディに乱暴働くなんて、許せねえ…!!」
「そうよね。さっきあったばっかりだけど、良いコだわ。それに…。
(もしかしたら、あたしと同じ様な状況下にあるのかも…。もしそうなら、助けたい…!)」
「よよよし、決まりだな!!」
「何で震えてんだウソップ」
「武者震いさ!」
「よーし、グラス島へ向けて出発だぁー!!」
「「「おぉー!!」」」
アリアを仲間にするため、麦わらの一味はグラス島へ向かうことになったのだった。
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