01.霧と始まり
"「行方不明及び重禍違反者一名発見」"
四十六室から、地獄蝶での伝達が入った。
そしてその後、再び連絡が入ったのだ。
朽木ルキア、六番隊の牢に収容されたり、と──
*****
連絡が入った、翌日のことだった。
十四番隊隊長、白霧鈴は六番隊へ向かっていた。
理由は無論、ルキアが収容されている、牢。
彼女に会いに来たのだ。
『──失礼する』
「いや、別に?私のおらぬ二月ほどの間に、随分と頑張って出世したな…と感心しておるのだ。良いではないか、似合っておるぞ。
がんばれ副隊長!!
強いぞ副隊長!!
ヘンな眉毛だ副隊長!!」
「殺す!!こっから出て来いてめぇっ!!」
『……、何をしているんだ。恋次』
「「!?」」
鈴が牢のある部屋へと入ると、何故か口喧嘩のようなものをしていた。
ルキアが挑発し、阿散井恋次がそれに乗っている、という一部分。
ルキアが入っている牢に手をかけ、出て来いと叫ぶ恋次の様子に、鈴は呆れたような視線を送る。
「え、あ、鈴隊長!!?」
「鈴、さん…」
目を見開き、驚く二人。
鈴はゆっくり歩み寄ると、鉄格子越しにルキアの前にしゃがんだ。
『…少し、痩せたのではないか?』
「!、いえ…」
『…話は全て聞いているよ』
「…」
『上辺だけの、状況報告はね』
「「!」」
真面目な表情の鈴。
彼女の言葉に、目を剥いた。
"上辺だけの状況報告"
つまり彼女は、それは事実だとは思っていても、真実だとは思っていないのだ。
そんな彼女に、ルキアはポツリと零した。
何故、と…。
『何故、か。私はルキアを信じている。何の理由もなしに、重禍罪を犯すとは思わないよ』
「鈴さん…」
『話したくなくば、話さなくてもいい。だが、これは覚えていてくれ。何があろうと、私はお前の味方だ』
ふわり、微笑む。
ルキアは涙が零れそうになった。
しかし、鈴や恋次の前で泣くわけにはいかない。
ルキアは涙を堪え、代わりに御礼を言った。
『…さて、私はそろそろ仕事に戻ろう。また来るよ。…恋次』
「!、あ、はいっ!!」
『暫く、通わせてもらう』
「わ、わかりました!!」
『ではな』
鈴は再びふわりと微笑むと、部屋を後にした。
*****
『──いつまで着いてくるつもりだ、ギン』
隊舎へ帰る途中。
ふと立ち止まり、振り向くことなく鈴は訊ねた。
すると彼女の後ろにある建物達の隙間から、彼女と同じ白銀の髪をした狐目の男が現れた。
男は背に"三"と書かれた白羽織を着ており、胡散臭い笑みを浮かべながら鈴に歩み寄った。
「何や、いつから気づいとってはったん、鈴ちゃん」
『…始めから』
「始めからかいな…」
前で落ち込んだような様子を見せる男…、三番隊隊長市丸ギン。鈴はそれを見ると、小さく溜め息を吐いた。
『それで、何のようだ』
「なーんも?鈴ちゃんがいてはったから、声をかけただけですわ」
『…用がないなら私は行くぞ』
「あぁ、ちょお待ってえな。これから僕と何処か行かへん?」
『断る』
「即答!?つれへんなぁ…」
『…イヅルも大変だな、お前が隊長だと』
「鈴ちゃん、それ酷ない!?」
明らかにギンを馬鹿にした鈴。
再び落ち込む彼に、鈴は再び溜め息を漏らす。
この男といると疲れる。
そう鈴が思ったのは、これで何度目だろうか。
会う度に絡んで来るギンに、いい加減本気で疲れていた。
「市丸隊長!!」
『…噂をすれば、』
ギンを呼ぶ声が聞こえ、振り返った。
すると其処には、鈴達の方へ駆けてくる、三番隊副隊長吉良イヅルの姿があった。
駆けてくる途中で鈴の存在に気づいたらしく、慌てて頭を下げる。
「鈴隊長もいらしたんですね!!」
『ああ、丁度良かったイヅル』
「?」
『ギンを連れ帰ってくれ』
困った様子の鈴。
ギンは酷いなどと言っているが、最早無視。
イヅルはやっと状況が読めたようで、すみませんと鈴に謝った。
『イヅルが謝ることじゃない。寧ろ助かった、ありがとう』
「い、いえ!!」
『またな』
そう言って、その場を去る鈴。
今度はギンに捕まらないよう、瞬歩で。
そして、その場に残されたギンは、同じく残されたイヅルに隊舎へと連れて帰られ、溜まっていた書類整理に負われるのだった。
*****
「鈴隊長、おかえりなさい!!」
『あぁ、ただいま』
隊舎に帰るなり笑顔で彼女を迎えたのは、十四番隊隊長駒笠京香。
鈴は微笑んで応えると、椅子へ座った。
その様子に、京香は疲れているのだろうと心配になる。
その様子に気づいた鈴は、彼女を安心させるように笑った。
『心配ないよ。ただ…』
「ただ…?」
『ルキアは、やはり捕まっていた』
「!…」
『私は、彼女を信じている。だから、彼女を救いたい』
「私もです!!お手伝いできることあらば、何なりとお申し付け下さい!!」
『フ…、ありがとう京香』
大丈夫。
きっと、大丈夫。
この時はまだ、誰も知る由もない。
裏で起きていた、計画を。
狂いだした歯車は、止まらない。
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